新譜評 ホワイト・ストライプス「Icky Thump」

 ホワイト・ストライプスの新作「Icky Thump」が発売されました。
 何回か聴いてみましたが、まず浮かんでくる言葉は「ゼップに似ている」です。これは誰でもそう思うんじゃないかな?元々「ブルースを土台にした音楽を大音量で演奏する」というところでは共通していた音楽ですが、今回は特に。今までもちょっと癖があった独特のリフは、さらに突き進み(?)、ジミー・ペイジの創る、あのねじれたリフに近づいています。ねじれているんだけど聴いていると気持ちよくなるところまで似ています。今回のアルバムではジャック君のボーカルもよりパーシー的で、よけいにゼップに似ていると思ってしまいます。もちろん安易にフレーズやメロディを盗んできたという意味ではありません。音楽の本質は正しくオリジナルなものです。ただ、印象はずいぶん近いということです。
 今回彼らはナッシュビルでアルバムをレコーディングしたとのことです。ブルースを基盤とする音楽を創作する人間がナッシュビルでレコーディングしたというと、反射的に「ルーツ回帰」という風に思ってしまいますが、僕はあんまりそうは思いませんでした。前作に比べるとギターの比重が増した(戻ってきたというべきか)とは思いましたが、必要以上に南部的ではなかったです。曲によってはトランペットがフィーチャーされてメキシカンなメロディのついた曲があったり、バグパイプが入ったスコティッシュな曲があったりしますが、そのどちらも「必要以上にエスニック」なもの、もっというと「土台になった音楽に忠実たらんとした」ものではありませんでした。メキシコ風メロディの「Conquest」などアレンジが独特すぎて、もはや「どこそこ風」では形容しきれない、「ホワイト・ストライプ独自」というふうにしか形容できないものになっています。
 ここで僕は、やっぱりゼップ、そしてクリームなどの大先輩たちとの共通点を感じます。今作の音楽について、形式や演奏など「ゼップとの接点」を見るのは容易いと思います(きっと聴いたらみなさんそう思いますよ)。さらに僕が思うのは、クリームに代表される、60年代後半の「白人によるエレクトリックブルース」との共通点です。これはスタイルではなく、精神的なものになってしまうので説明できるか不安なんですが、大先輩たちもWSも、「自分たちの時代に自分たちがブルースを演奏せざるをえない衝動」を原動力に音楽を創作しているように思えるんです。
 かつての大先輩たちが、人種や地域、構成楽器などの違いをハンデとのみとらえず、結果的にブルースを再定義していったように、WSもまた、どこかいびつで独特の音楽でありながら、その根っこはブルースであるということ。言い方を換えると、WSの音楽の本質はむしろオーソドックスなブルースなんですが、それをそのまんま出すのではなく、自分たちの才能と意欲というフィルターを通して形にしているという感じです。結果的にWSの音楽は、21世紀にブルースがいかに演奏され、愛されるかという事に対してひとつの大きな可能性を示しているんだと思います。
 それにしても今作、実に見事に「レッド・ツェッペリン的」ですね。エスニックなテイストがあるのにちっともワールド・ミュージックに聴こえないところまでそっくりだ(笑)。ゼップ的というとスタイルのことをさす事が多いですが、音楽の立ち位置とブルースとの距離感という意味で似ているというのは、なかなかないことだと思います。
 でもジャケットはちょっと…(笑)。もともと個性的なルックスのお2人にこの服着られてしまうとちょっと…、インパクト重視かな(苦笑)?。

イッキー・サンプ

イッキー・サンプ