クラシック二題噺(のはずがELP礼賛)

 辻井伸行さんがクライバーン・コンクールで優勝して大騒ぎになっていますね。この人の演奏は以前テレビで観ていて、えらくテクニカルで性急なピアノを弾く人だなあと思って、そのまま特にフォローもせずにいたんですが、今回のニュースで気になって、たまたまiTSにあった英雄ポロネーズを聴いてみました。1曲だけですが通して聴いて、当初の印象よりもずっと重厚な音色の人なんだと認識を新たにしました。曲全体を気負いが覆っているかのような濃密なスピード感は若いからでしょうかこの人の持ち味なんでしょうか。クラシックファンの方はよくおわかりかと思いますが、この世界、コンクールで優勝するというのはいわば「スタートライン」ですから、これからがんばってほしいなと思います。これからの音楽人生はコンクールの名前の人とは違うものになってほしいですね。
 話題は変わって村上春樹の「1Q84」、僕は完全に乗り遅れ、というかバカ売れしてからその存在に気づいたというほどだったんですが(タイトルさえちゃんと読めず、春樹大ファンの友人に教えてもらったほどですw)、いまだに現物を見ていません。それくらい売れているんですね。以前はずいぶん読んだ村上春樹ですが、ここ10年以上まったく読まなくなってしまいました。理由は不明。自分とずれてしまったのかなあ?今や世界的な作家ですからね、すごいもんです。
 そんな感じなので直に目を通しての情報ではないんですが、この小説の中にヤナーチェクの「シンフォニエッタ」が出てくるらしいですね。そして小説に出てくるせいでCD品切れ続出だとニュースになっていました。すごいなあ。もともと在庫の少ない曲だったでしょうから早い者勝ちでしたね。テレビで得た情報ですが、小説に登場するのはジョージ・セル指揮クリーブランド響なんだそう(すみません、本当に現物知らないので未確認なんです)。久しぶりに聞いたなあセルの名前。ヤナーチェクのついでに(失礼!)また大きくプッシュされるといいですね。
 ところでその「シンフォニエッタ」の第1曲は、クラシックロックファンには(そうと気づかずとも)耳に馴染みのあるものです。ご存じだと思いますが、あのエマーソン・レイク・アンド・パーマーの「Knife Edge」という曲に大々的にフィーチャーされています。というか、あの曲はほとんど「シンフォニエッタ」に歌詞を付けたようなものです。間奏の後半はバッハ(のフランス組曲)だし、ほとんどメンバーは作曲していないですね。
 ただアレンジは実に独特で、あのクセのある原曲をとてもうまく編曲しています。同じファースト・アルバムに収録の「The Barbarian」でのバルトークアレグロ・バルバロという曲)はほとんど原曲そのまんまソロピアノで演奏していましたが、「Knife Edge」はヘヴィーなロックサウンドになっていて、彼らの(というよりキース・エマーソンの)クラシックに対する造詣の深さが窺われます。だいたいクラシックの名曲をロックにアレンジするとリズムが単調になることが多いんですが、ELPの場合はそのへんの処理も見事です。
 ヤナーチェクの名前を聞いたのをきっかけにファーストアルバムを聴き返してみました。「Knife Edge」に限らずどの曲もものすごいテクニックを駆使していますが、決して形式を整える方向には向かっておらず、むしろ全部のパートが全力で自己主張しているような熱気を感じます。ELPのようなバンドはいわゆる「オールドウェーヴ」のひとつとなっていて、現在のロックシーンではちゃんとした位置づけがなされていないですが、楽器演奏によってまったく新しい風景を見せることに成功し、しかもそれが「様式」に堕することがないという意味で、もしかするとパンクとの共通点も多いといえるかも知れません。キースのシンセやハモンドの絶叫を、例えばギャング・オブ・フォーのギターと並べて聴くのも、ロックの聴き方のひとつかも知れませんね。
 「1Q84」が売れて、ヤナーチェクが注目され、ジョージ・セルが再評価されて、ついでにELPも見直されたらいいなあ、なんて考えています(まあ、「Love Beach」はどうするんだという話しは置いといてw)。

Emerson Lake & Palmer

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