ブライアン・ウィルソンという名の奇跡 音楽という名の幸せ

 1月31日、東京国際フォーラム ホールA。Brian Wilson

 セットリストほか、詳細はたくさんの人たちがアップしているので、くわしくはそちらに譲ります。ここでは感想のみ。

 第1部前半は、アッと驚くアコースティックセット。後半のバンドでのセットに移る時は「Welcome」をジングルにするなど選曲も気持ちのいいマニアックぶりでよかったです。「Add Some Music」はもちろん、「And Your Dream Comes True」まで聴かせてくれていうことありません。アコースティックセットの時は、コーラスがメインだったせいかアレンジがたくみだったのか、レコードと比べても少しも聴き劣りしないどころか、それ以上の素晴らしさでした。バンドセットもちろん良かったです。弟達に、とコメントして(ちゃんと聞き取れなかったのですが、そうですよね)始まった「Forever」では、不覚にも(いい歳して)目頭が熱くなってしまいました。

 第2部、伝説の「SMiLE」。
 内容はもうCDでも聴いているし、断片ならそれこそずっと昔からBB5のいレコードや海賊盤で知ってはいましたが、それでもやっぱり生で観て、聴くのは特別な体験でした。こちらの長年の思い入れや妄想もコミでいいますが、これほどファンの間で観念的に膨れ上がった音楽というのもないと思います。それが、テクニックに裏打ちされたミュージシャンによって、愛情と尊敬をもって演奏されると、まるでたった今誕生したような無垢な姿で聞こえてくる。本当の意味で「ただ今この瞬間、この時間を共有する喜び」に満ちた空間でした。
 
 ちょっと偉そうに書かせてもらうと、ぼくは「これはシンフォニーだ」と感じました。昨年リリースされたCDでは、全体が3部構成になっていると言われていましたし、特に反論したいわけでもないのですが、昨日聴いていて、ぼくにはむしろ、交響曲の4つの楽章を連想したのです。「Our Prayer」から「Cabin Essence」までが1楽章、「Wonderful」から「Surf's Up」までが2楽章(アダージョかな?)「I'm In Great Shape」から「Windchimes」までが3楽章(スケルッツオだろうな)そして「Mrs. O'Leary's Cow」からが最終楽章という感じ。ブライアンが「Pocket Symphony」と呼んでいたのは「Smile」だったか「Good Vibrations」だったか忘れてしまいましたが、ぼくにとっては、昨日の「SMiLE」は「現代のシンフォニー」でした。そう思って観ていたせいか、ぼくには昨日の客席が、まるでクラシックの聴衆のように、真剣にステージに向かっているように感じられました。そのためか、「Good Vibrations」のクライマックスで客席が総立ちになったのがとても新鮮で感動的でした。

 アンコールはもう定番中の定番で、ぼくもノリノリだったのはいうまでもないでしょう。そしてこれも定番の、最後の「Love And Mercy」。静かに歌われるこの名曲を、じっと聴き入っている客席のぼくたち。今ここで、人生だの、世相だの、国際情勢だのは語りません。ただ「今夜ぼくと君に必要なのは愛と慈しみなんだ」という調べは、40過ぎたオヤジの胸を、静かに打ちました。ありがとうブライアン・ウィルソン。あなたがここにいて、ぼくたちがここにいる奇跡と幸せをありがとう。