これでパズルが完成だなんて・・・

 スター・ウォーズエピソード3「シスの復讐」、観て参りました。えらい忙しいなか、時間を作って。前2作の出来と評価がナニななか、面白いと評判の今作、それなりに期待してスクリーンに向かいました。で、感想。
 うーん、確かに新3部作の中では一番の出来でしょう。冒頭の空中戦など、こちらも一緒に飛んでいるかのような迫力(ほんとよ)で、これだけでも行った甲斐があったというものです。
 しかし、肝心のストーリーはというと。。
 今作のプロットは、もうずっと前、極端に言えば28年前からわかっていたものです。そのプロットを、脚本や演出、演技がどれだけ見事にもり立てるかというのが今回の肝になるのでしょう。
これが(1回観た限りでは)、どうも「?」なのです。
 共和国が暗黒卿の奸計により帝国と変貌する、共和国の騎士団が滅亡する、という縦軸はいわば「時代背景」で、それを観客が身近に感じる(感情移入する)ためには、そのための登場人物が必要です。歴史の大転換を身をもって体験し、観客にとって架空の世界の出来事をリアルに感じさせるためのキャラクターが。この役割は、間違いなくアナキン・スカイウォーカーが担っているでしょう。
 なのに、そのアナキンに感情移入ができないのです。これは、アナキン役のヘイデン・クリステンセンの演技力ばかりの問題ではありません(彼は健闘していると思います、ちょっと演技がカタいと思いますが)。若いが故に周りの期待や、自分の問題点について十分な考察ができない、自分の力を信じるあまりに周囲の評価に不満を持つ。そうした感情は、誰でも経験のある普遍的なものです。だから、観客はいつでも彼に自分を投影して大スペクタクルに身を投じることができたはずでした。
 しかし、少なくとも僕はそうならなかった。それは、脚本と演出がそのレベルに達していなかったためと思います。もう少し丁寧に描けば、アナキンや他の登場人物の感情やコミュニケーションがわかりやすいものになるのに、パッ、パッとあっさり処理してしまうので、観ながら「この人たち、ちゃんと話して意志を伝えることができないのかしら?」なんて思ってしまったほどでした。パドメから妊娠を告げられたときの月並みな会話、評議会には入れるがマスターとは認めないと宣言されたときのやりとり、そのあとの極秘任務を命じるときのオビ・ワンとアナキンの会話、善人アナキンとして最後にオビ・ワンに告げる謝罪と尊敬の言葉(と、それに答えるオビ・ワン)etc、etc。
 すべてが手短に処理され、感情をこめられることがありません。まるで、CGてんこ盛りの戦闘シーンに時間をさかなきゃいけないからできるだけ短くしなくちゃ、と言っているようです。演出の問題ですが、全体に役者の表情や演技に相応しい場面を与えておらず、薄っぺらな印象を与えてしまってもいます(みんながんばってるのに)。
 これは結局、ルーカスの、スター・ウォーズ制作の根本がそういうものだからなのでしょう。彼にとって役者の演技や脚本は、より迫力ある戦闘シーンやうようよでてくるクリーチャーほど重要ではないのでしょう。ヘイデンのインタビューに、「撮影後にセリフが変わっても、撮り直しではなくデジタル加工で変更している」というコメントがありましたが(「Cut」2005年7月号)、ルーカスにとって演技とは、他のCGキャラクターと同列の存在なのでしょう。ストーリーがわかればいい、すべて自分でコントロール可能であるべきだ。本来映画にとって一番重要な「演技」「脚本」「演出」がそんな扱いでは、映画は生きてこないでしょう。例に挙げるのも大人げないですが、ピクサーやドリームワークスのCGムービースタッフが、いかに「CGキャラクターに生命を吹き込むか」に腐心しているなんて、今のルーカスには思いも寄らないことに違いありません。
 脚本に関して言えば、劇場プログラムに載っていたルーカスの言葉に「ほとんど一瞬のうちにアナキンが(略)変化をみせなければならない点だ。通常、こうした変化は伏線によって観客が予期することになるが、この映画はそうではない」と、あくまで意図的だと説明しています。これは確かに意図的なものでしょう。しかし、それが効果を上げているかは疑問です。結局観客に伝わらなければ、脚本の推敲不足を言い訳しているように思えてしまいます。
 オーダー66に代表される戦争や策略の恐ろしさや、ジェダイ騎士団の悲惨な最期、アナキンとオビ・ワンの最後の戦い、双子の誕生、あのスーツをまとったベイダーの姿、ラストでタトゥイーンに落ちる2つの太陽・・・。一つ一つはとても印象深く、長年観てきたファンにとっては思い入れも強いもののはずです。なのに、なにかが違っている。本当ならここで感動したいのにできない。僕はエピソード4の封切りを観た人間です。新作が公開されるたびに劇場に足を運び、ビデオもDVDも購入し、エピソード3公開前の、地上波で集中放映された過去の作品も(DVD持ってるのに)チャンネルを合わせる程度にはスター・ウォーズが好きだといえます。その人間にとっても、「3」は疑問が残った。それは、ストーリーの出来以上に、ルーカスの「映画製作に対する姿勢」が理由だったのでは?と思っています。


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