進歩しない天才

 いきなり昔話から。
 今からえーっと、計算できるけど書くのが恥ずかしいほど昔、NHK-FMのヤングジョッキー(渋谷陽一さんの番組です)で「プログレッシブ・ロックベスト20」という特集がありました。リスナーからの人気投票でベスト20を選ぼうという企画で、栄えある第1位はELPでした。フロイド、イエス、クリムゾン、ジェネシスなどを抑えての1位ですから、彼らの人気の高さがわかるというものです。抜群のテクニック、若干ハッタリじみているけれど圧倒的な構成、それに潤いを与えるようなグレッグの叙情的で甘い声と歌詞、僕がELPを聴きだしたころは、ある意味で全盛期は過ぎていたのですが、それでもみんな聴いていました。このころクラスの友人に、あの長いタイトルの3枚組ライブを持っているのがいて、それを聴かしてもらうのにえんえん威張られていやだった思い出(笑)があります(ELP持ってる俺はエライ、恐れ入ったかということだったんです)。
 「展覧会の絵」や「トリロジー」は今でもすごいなあと思う名盤です。その後彼らはあの「Love Beach」を出していろんな意味で終わってしまい、パウエルとか再結成とかいろいろあって現在に至っていますが、今ではすっかり地味な存在になってしまいました。全盛期に比べて地味なのはともかく、イエスやクリムゾンといった、再結成組の中でも地味です。なんでこうなってしまったんでしょう?
 僕はELPが好きで、90年代に再結成したときの来日公演も観ています。そのときは予想外の熱演名演で「おお、すごい!」と感激したのですが、その2年後くらいに再来日したときにはちょっと印象が変わってきたんです、「同じだ」と。うまいし、充実しているけれど、前回観たときと変わっていないのです。これは、ストーンズをいつ観ても変わらずストーンズだ、というのとはちょっと違います。
 改めて彼らのレコードを聴くと、どうも「ずっと同じ」に感じられるのです。これは、音楽のスタイルや演奏、フレーズがワンパターンというわけではなく(そういう部分もありますが)、なにか「音楽そのもの」が進歩していない、いつも同じ姿勢で演奏している感じなんです。これは結局はキースにその原因があるのではないでしょうか。グレッグもカールも、持ち味が変わるほどの変化はなかった人ですが、キースの場合はもっと極端に変わらないんです。ELP前にキースがやっていたナイスというバンドは、後期になるほどELPのプロトタイプ的になりますが、そこでもう、後のELPと同じ演奏をしています。曲名は忘れてしまいましたが、ピアノがメインの曲で、もうELPのピアノソロと変わらない感じのものがありました。これは、その頃から彼はすごかったといえばいえますが、逆に言えば、やはり「キャリアを重ねて演奏に深みが増す」というものとは違う、彼の才能の特異性(最初から完成されていて、前にも後ろにも変化しない)だと思います。
 僕としては、そんな彼らの音楽が好きですし、キースの才能の大きさもよくわかるのですが、時代の顔であるだけではない、時代を超える存在になるには、一歩及ばなかったのだと思います。あれほどの才能と技術なのに。本当に音楽は不思議です。
 
 追記:僕は「Still...You Turn Me On」や「Trilogy」といった「グレッグのセンスを基本にしてキースがアレンジした」曲が好きです。こういう感じの共同作業が続いたら、ELPにも違う道があったんでは??展覧会の絵(K2HD紙ジャケット仕様)