ジョンの描いたジャケットも、とてもチャーミング

 ちょっと前から、「フーを聴こうかな」というときに手が出るのが、今日取り上げる「The Who By Numbers」です。あの、ジョンが描いたイラストが印象的なアルバム。7枚目のオリジナル・アルバムとして1975年に発表されています。
 このアルバムからフーの受難が始まるという感じに、今は思われています。このあと(3年後ですが)キースの死があり、それからのフーはその知名度や売り上げなどとは裏腹に熱心なファンからの評価を下げていき、82年にいったん解散します(そしてその後もグループの歴史が続くのはご存じのとおりです)。
 このアルバムの不評の理由は、その歌詞にあります。1曲目の「Slip Kids」からして「簡単に自由になる方法なんてありゃしない」、続く「However Much I Booze」なんてピストルズも真っ青のノーフューチャー・ソングだし、「How Many Friends」の「初めて知り合ったときから強い親交があったのに、実はお互い陰口たたきあってた」という詞を、初めのころは本当に重い気持ちで聴いていました。極めつけは「Blue Red And Grey」の、酔っぱらいが寝言を言っているような物言い。当時ももちろんフーはスーパースターで、いわゆるスタジアム級のバンドでしたが、詞だけをみるととてもそうとは思えません。この後のキャリアをみても、「Who Are You」「Face Dances」「It's Hard」と、ファンにも辛い時代が来ることになり、その意味でもきついレコードです。
 でも僕は、このアルバムが好きです。理由は簡単、「演奏が見事だから」。簡単すぎますね(笑)。でも本当です。上に書いたように、詞だけではまったく出口なしなんですが(ほぼすべてピートのもの)、メロディと演奏がものすごくいいのです。前作「四重人格」での緻密でダイナミックなアレンジと演奏の反動かと思うくらいシンプルに思えますが、よく聴くと相当に作り込んだものです。主にアコースティックを中心に丁寧に作っていったバッキング、自身の最高水準の歌唱を聴かせるロジャーのボーカル。そして、曲のメロディの水準の高さ。僕はメロディに関しては、真面目に「Tommy」に匹敵すると思っています。ゲストとしてピアノを弾くニッキー・ホプキンスも素晴らしいサポートぶりです(なんで死んじゃったんだ!?)。
 上には「歌詞が救いなし」という風に書きましたが、それすら愛おしいです。もう少し虚勢を張るくらいできるだろうに、その当時の自分の気持ちを少しも偽らずにさらけだす感じの、「情けない」リリック。でもそれがかえってピートの誠実さを感じさせてくれてくれます。ファンは結局、彼らのそういう部分に惹かれるんですね。逆に言えば、ピートのそういう気持ちにバンドが力あふれる演奏で応えたということなのかも知れません。ピート自身はあまり評価していないらしいですが(ライナーにその旨の発言が掲載されています)、そんなに卑下しなくてもいいじゃない、と思いますね。ピートの思いをバンドが共有し、素晴らしい音楽に仕上げたという意味では、僕にとってはこのアルバムは、「四重人格」と双生児だと思います。
 最後に、僕がこのアルバムの中で一番好きな歌詞を。アナログではアルバムの最後に収録されていた(CDではその後にボートラあり)「In A Hand Or A Face」の一節です
「知らない人間を嫌うなんておかしいじゃないか/きちんと考えればうろたえる必要なんてないのに」
 追記
 ジョン作の「Success Story」がなかなか皮肉が効いていて好きです。映画の「The Kids Are Alright」の中で、ジョンがこの曲をバックに、「ゴールド・ディスクでクレイ射撃」の映像(PV?)がかっこよかったです。そのシーンで映る、ジョンのギターコレクションも見物でした。

The Who By Numbers

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