楽しくて明るくて、切ない英国の香り

 このところ仕事が忙しく、帰宅も遅いです。帰宅するともうみんな寝ているので、なんだか本当に遅く帰ってきたという気分になりますが、冷静に時計を見ると、まだ11時前。まあまあというところですね。年度始めなのでいくつかの業務をスタートさせるのに、今年はちょっと戸惑っています。そんなわけでちょっとだけ疲れているときに、なんだか無性に聴きたくなり、このところ聴き続けているアーチストがいます。ロニー・レイン。
 この人の音楽は、特にスリムチャンス時代がそうですが、とても強くアメリカのカントリーやフォークに影響を受けています。スモール・フェイセズ時代はR&Bだったりサイケデリックだったりで、要するにアメリカからの影響が大きい。そこまでは他のイギリスのアーチストにも同じような人がけっこういますが、例えばクラプトンや(70年代前半の)ストーンズ、ロッド・スチュアートなどのように本当にアメリカに旅立ってしまう人たちと違って、ロニーはフェイセズ脱退後のソロ活動でも、活動の中心をずっとイギリスに置いていました。上に「アメリカ音楽に強く影響を受けた」と書きましたが、実際に彼の音楽を聴くと、不思議とどこか「翳り」というか「湿り気」を感じます。僕が勝手に「英国のソウル」と呼んでいる、あの感じ。それがあるために、酔いどれバンドのフェイセズも、スリムチャンスも、単なる「アメリカ音楽のコピー」で終わらず、深い味わいを感じることができます。明るいんだけど、楽しいんだけど、どこか切ない音楽と歌声。フェイセズを抜けた後ロニーがやった「ザ・パッシング・ショウ」はダンサーや大道芸人も一緒にバスで移動する、サーカスのようなものだったということですが、サーカスの楽しさやちょっとしたペーソスにも通じる、琴線に触れる音楽。最近の疲れた身体と心に、奥深いメロディと演奏そしてあの歌声は、本当に沁みてきます。
 今日部屋に流しているのは、「April Fool」という編集盤。スモール・フェイセズからソロに至るまでの、ロニーの全キャリアを、ヒット曲、代表曲、そしてその別テイクなどで網羅したもので、あのピート・タウンゼンドとの競演盤「Rough Mix」からも選曲されています(編集盤のタイトルは、ピートとの競演作からとられています)。どの曲も素晴らしいですが、僕はやっぱり、スリムチャンス以後の作品が好きですね。「The Poacher」は実に英国らしいストリングのアレンジが素晴らしいナンバー。そして「One For The Road」は、まるでジョージ・ハリソンの曲かと思うほど曲想もギターも歌声も似ています(本当に似ています。具体的などれかの曲に似ているんではなく、まるでジョージが作った曲のよう、という意味)。ともにイギリスに生まれ、アメリカの音楽に憧れて自分の世界を作っていった2人ですが、そのあこがれと自分へのこだわりには共通点があったのかも知れないですね。
 明日は土曜日。僕の住んでいる地域は今日も断続的に降雨と強風。今も風が強いです。今夜は「Ooh La La」の、楽しく酔っぱらったような歌声に送られて眠るとしましょうか。みなさんおやすみなさい。いい週末でありますように。

April Fool

April Fool