期待して読んだんだけどなあ、、。

 スティーブン・キングの短編「いかしたバンドのいる街で」を読みました。少し前にロッキング・オン松村雄策さんが紹介していたもので、ストーリーは、あるアメリカ人の夫妻が自動車で旅行中、道に迷ったあげくに着いた田舎町で遭遇する悪夢のような出来事というか、悪夢そのものというか、そういう作品でした。キングはたまに読む程度で、そんなに熱心な読者ではないんですが、今回読んでみたのは他でもない、この作品にたくさんの「他界したロックミュージシャン」が登場するということを知ったからです。死んだはずのロックスターが住む地図にない街という設定、そして本の表紙(僕が購入したのは文春文庫版です)は、ロックファンなら手に取らずにいられません。このプロットでキングがどんなふうに話を組み立てていくか、けっこう期待して読み始めました。
 なんですが、、、。うーん。
 確かにロックミュージシャンはたくさんでてきます。舞台となる街の、なにげないけれど不気味な様子を(主人公の心理描写として)説明する語り口はいつもどおり饒舌ですが、面白かったです。ただし、この小説自体については、どうも僕が思っていたようなものではなかったです。
 プロットについて考えると、この街に死んだロックスターがいる理由がわかりません。もっというと、いるのが「死んだロックスター」である必然性がないんです。道に迷い、平和そうだけれどなにかが違う町に入り込む、そこで不気味な出来事に遭遇する、、、ならばその出来事がどんなものかが肝になるんですが、そこに読者が納得するような説明(あるいは、みんなを煙に巻くようなケレン)がないために、なんだか入り込めないんです。
 僕のような人間は、主人公たちが出会う人間が「死んだロックスター」であることを、なんとなく推察できます(ネタバレですが、ジャニスなんて登場した瞬間にわかりました)。でもロックファンじゃない人にとっては、それだと説明されたとしても、「?」ということになってしまいます。なぜなら、「そこ」に「彼(あるいは彼女)」が存在している伏線や説明がないんですから。だからいるのがロックスターである必然性が感じられないんです。これもネタバレですが、リック・ネルソンやバディ・ホリーなど、生前の容貌を知らない人にとっては、小説のような行動をとる彼らの本当の不気味さは伝わりません。せめて物語の後半、少しでもそこに言及されていれば別だったんですが、最後までそうしたことがないため、怖さはつまるところ「死人がうようよいる・入り込むと抜けられない町」という部分のみです。辛口で言ってしまえば、「死んだ有名人だったら誰でもよかった」ことになります(ロックミュージシャンを映画スターにすげ替えたとしても、物語上あんまり支障はないんじゃないかな?ラストをコンサートではなく映画のプレミアショーにさえすれば)。
 この作品、もとは「Nightmares & Dreamscapes」という短編集に収録されていたものだそうで、悪夢そのものがテーマなのかも知れません。そうするとなんとなく、この唐突な終わり方をする話も腑に落ちるかな?冒頭20ページに渡って描かれる「一組の夫婦が道に迷う」ところはとても面白かったので、もしかしたらその、うんざりするような道程で眠り込んでしまった2人が観たイヤな夢、というものなのかもしれません。でもそれにしても、やっぱり登場するのがロックミュージシャンである理由は不明ですね。僕としてはやっぱり、そこの部分が引っかかってしまう作品でした。
 ついでにいうと、表紙はあんまりストーリーを反映していません。そこも「?」でした。
 でもやっぱり、読んでいる間は聴きましたよ、登場する人の曲(笑)。読みながら片手でiPodのホイール回す回す(笑)。電車の中で(笑)。