ジュディ・シル そしてある友人へ

 突然ですがみなさん、ジュディ・シルというアメリカの女性シンガーをご存知でしょうか。70年代の初期に2枚のアルバムをアサイラムから発表し、その才能を高く評価されるもさまざまな事情により活動が停滞、その後70年代の終わりにひっそり世を去った歌手です。ずっと「知る人ぞ知る」存在だった彼女ですが、近年再評価され、アルバムは再発され、未発表だったサードアルバムも日の目を見、今では生前以上に尊敬されている人です。今ちょっと大きめの(ロック系やSSW系が充実した)レコ屋なら、容易に彼女の作品は見つけることができます。
 なんてエラそうに書いていますが、かくいう僕も、彼女の名前を知ったのが数年前、実際に作品を聴いたのはつい何ヶ月か前に過ぎません。
 で、聴いてみて本当に衝撃を受けました。どうしてこんなすごい作品に今まで行き当たらなかったんだろうと悩むほどのものでした。音楽のスタイルは基本的にフォークミュージック、曲によってピアノ、ストリングスが絡む感じ。彼女自身の多重録音によるコーラスが特徴的といえます。が、書いていてなんですが、こんな言葉は無意味です。実際に曲を聴くと、そんな言葉で因数分解できないような美しくて哀しい世界が目の前に広がります。上に書いたように、音楽の基本はフォークなので決して聴きにくいものではなく、曲によってはカントリータッチで弾むような調子でもあります。でも、聴いているとわき上がってくる感情はもっと神聖で敬虔なものです。
 僕が持っているのは生前発表された2枚のアルバムにデモやライヴバージョンを加えたコンピレーション、それに最近発表されたBBCライヴですが、未発表バージョンも含めて1曲も駄曲捨て曲がありません。特に、セカンドアルバム「Heart Food」に収録されている「The Kiss」は、今まで30年間なぜ出会わなかったんだろうと悩むような名曲です。スタジオバージョンはピアノ、オーケストラ、多重録音コーラスによる「聖歌」のような趣の曲で、これだってとんでもない名曲ですが、デモバージョンやBBCライヴでのピアノ弾き語り(当然コーラスなし)は、曲(と彼女の声)の本質だけですべてが成立していることがわかるもので、完成テイクよりもさらに感動的です。ああ、僕の言葉じゃあ全然彼女の素晴らしさが伝えられない!みなさま、機会があったらぜひ聴いてみてください。本当にお願いします。
 さて、すみません、ここからはある友人への私信です。
 軽々しく気持ちをわかったふりをしたり希望を述べたりする事は、かえってあなたに対して失礼でしょう。今の僕にてっとりばやく「役に立」ったり「支えに」なったりすることはできないかもしれませんが、どこにいてなにをしようともあなたのする事に僕も賛成ですよ。今日書いた、ジュディ・シルの「Crayon Angels」の詩の冒頭にこうあります「Crayon angel songs are slightly out of tune/But I’m sure I’m not to blame/Nothin’s happened but I think it will soon/So I sit here waitin’ for God and a train/To the astral plane」
 「クレヨンの天使の歌はちょっぴり調子っぱずれ/でも気にしないわ/もうすぐよ、じきにすべて始まるわ/だから私はここに座って、神様と列車を待っている/天界の飛行機に乗るために」
 今度会った時は前回果たせなかったことをみんなやろう。