コンサート評 リック・ウェイクマン

 今日はリック・ウェイクマンのコンサートに行ってきました。会場はビルボード東京。ちょっと前の日記に書きましたが、大江戸線副都心線のおかげなのか、都内へのアクセスがよくなりました。今回も最寄り駅から1時間弱、1回の乗り換えで六本木まで行けました。
 僕は自由席だったので、案内されたのはステージ向かって最前列右端の席。僕の隣には誰も案内されなかったので、僕が本当に「一番端っこ」でした。でも会場が会場なのでものすごくステージに近く、個人的には上の方のリザーブシートよりも嬉しかったです。ステージの上にはグランドピアノが1台とシンセ類が6台ほど。今回は完全ワンマンなので、ドラム等の楽器はありません。
 定刻を少し過ぎて客電が落ち、リック登場。大きいなあ。いつも思いますが、あの人が座るとグランドピアノが小さく見えます。そして夏なのに黒のガウンを羽織っています。お顔はふくよかになり、髪もうなじあたりまでですが、全体の感じはまさしくあの「リック・ウェイクマン」でした。客電が消えたときから始まりリック登場後も会場に流れていた「パッヘルベルのカノン」に合わせてピアノで軽くオープニング。「軽く」と書きましたが、それはあくまでたたずまいで、実際は非常にテクニカルなものでした。基本的にはあの手クセフレーズが多いんですが(それはこのコンサート全体にいえたことですが)、実際に生で聴くと、そのフレーズを弾くときの雰囲気や弾き方(力の入れ方、抜き方、間合いなど)で変化があり、ルーティンのような印象はありません。
 それはコンサートの後半演奏された「アラゴンのキャサリン」ピアノバージョンがよく物語っていました。「ピアノだけで弾くショートバージョンだよ」という紹介で始まった、この最も有名なリックの作品といっていい曲は、演奏がニュアンスに富み、今まで(イエスのステージやソロライヴ盤)聴けたどのテイクよりも美しく繊細なものでした。特に後半部、幾分テンポを落として弾くところは、この曲がこんなにデリケートな曲だったかと再認識するほどでした。コンサートはピアノとシンセ類を交互に演奏するという感じで進行し、シンセを弾くときは音色も多彩でテクニカル、一般的な意味での「リック・ウェイクマン」ぽいものでしたが、イエスのでソロコーナーのように弾き飛ばす感じはせず、力一杯でも全体の構成を考えた演奏でした。ただ個人的にはイエスの2曲(「And You And I」と「Wonderous Stories」のメドレー)は少し音色がそぐわなかったのではないかなあ?と思っています。その意味でも今夜僕はピアノ演奏の方に軍配を上げたいです。
 リックというとどちらかというと肉食人種的スティッキーさがパブリックイメージになっていますし、今夜の演奏にもそういう感じはありましたが、ピアノソロはどれも美しく細やかでした。会場があまり大きくなかったため、そういういい部分が観客に伝わったのかもしれません。「他のアーチストのレコードでもたくさん弾いているんだけど、今日はその中の1曲」と言って(ピアノだけで)始めたキャット・スティーブンスの「Morning Has Broken」(雨にぬれた朝)は感動的でした。セッションミュージシャン時代の話しは、初見でなんでも弾けたとかものすごい数をこなしたとか、ミュージシャンというよりも「現場の作業員」みたいな言われ方が多いリックですが、この曲など、単に賃仕事をしたのではなく、ちゃんとリックが自分の才能をもって演奏をしたということがよくわかる名演です。静かに、真剣に弾かれるこの曲が聴けたことが、今日の僕にとって最大の収穫です。
 1曲ごとにわかりやすい英語によるMCが入り、終演後のサイン会でもとてもにこやかにしているリックを見ていると、年を重ねるということがいい方向に向かったんだなあ(いや、個人的に知っているわけではないんですが)と、昔からのファンとしては感慨もひとしおです。なにより、ピアノを弾いているときの真剣な表情(とても近くで見られました)に、今でも音楽に情熱を持っている姿を確認できたのがうれしかったです。
 

Six Wives of Henry VIII

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追記:コンサートの中盤、ABWHの「Meeting」を演奏する前のMCで「病状が思わしくないジョン・アンダーソンのために弾きます」というようなことを話していたのが少し気がかりです(ジョンはこの春に病気になり、予定されていたイエスのツアーが延期になっています)。すぐに回復するようなニュースだったと記憶していましたが、どうなんでしょう。順調な回復ならいいんですが。
もうひとつ追記:コンサート本編のラストは、なんとビートルズの曲でした。「Help!」と「Eleanor Rigby」メドレー。もともとリックは以前、ビートルズのカヴァーアルバムを出していたのでそこからの出典ということなんでしょうね。「Help!」はゆっくりしたペースで進むもので、なかなかよかったです。