ザ・フー来日公演(遅ればせですが・・)

shiropp2004-10-05

(またずいぶん時期を逸してしまったことで。
この一文は7月24日に観たザ・フーのコンサートのレビューです。
ほとんどイッキに書き上げたのですが、なんかどうまとめていいのかわからなくなってしまい、放ってしまっていたのです。
先日、この日のライブ盤が出て(正規盤よ♪)、それを聴いていたら、もうなんでもいいから、この感激を公表したい!と思い直し、アップします。直後の記憶に基づいて書いたもので、ライブ盤で確認すると、若干事実と違うところもあるのですが、そこはそれ、事実よりも感激ですわ(笑)。

各方面大好評だったフー。思いがけない大受けに本人達もご満悦、今度は単独再来日!とかうわさが飛んでいます。初来日が決まった時は、1回でも来てくれれば満足、と思っていたのですが、だんだん欲が出てきてしまいますね。ああ、ほんとに実現して欲しい!)

ということで・・

7月24日 僕たちはザ・フーを観た

B'sの稲葉の終演あたりを見越して会場(横浜国際総合競技場)に行く。会場のまわりは日照を遮る陰のようなものがなにもなく、同行の妻は暑さにブーブー言っていた。
会場はまあまあの入り。後で気がついたのだが、トリのエアロスミスの時にはフルハウスだったので、エアロだけ見に来た人もいたらしい。こっちだって稲葉以前のアクトはスルーしたのだから人のことは言えない。

セットチェンジの休憩時間に席に着く。見回すと、フーのTシャツを着ている人もけっこういる。同志よ!(僕は着ていきませんでしたが・・)。

今回の来日がうれしいかどうかと問われれば、もちろん嬉しいし待ち遠しかった。しかし、あまりに待たされたせいか、長年「日本では売れていない」という評価を聞かされ続けていたせいか、どこか座りが悪かった。単独公演なら、回りにいるのはファンばかりだから安心なのだけれど、これは複数の出演者がいるフェスなのだ。フーのことを知らない人も多いだろう。その人たちがどんな反応を示すのかが、なにか不安なのだ。思い入れが強いためか、変な「身内意識」があって、こっちまで落ち着かなかった。もう出番が終わったアーティストのファンらしい人たちが席を立つのも見える。フーが出てきたときに空席が目立っていたらどうしよう。ファンじゃない人が冷淡な反応だったらどうしよう・・。本当に勝手な感情なのだが、それほどフーのファンは少数派だったのだ。

ほぼ定刻、ついにバンドがステージに登場した。予想に反して(すみません)大歓声の中演奏が始まった。1曲目は「I Can't Explain」。始まったばかりでまだちょっと演奏がカタイ。ロジャーのマイク振り回しもちょっととちったりして、本調子ではない。それでも僕は盛り上がってしまった。遂に「彼ら」が現れた。ステージに上がってプレイが始まった。これでもう大丈夫だ。何も心配はない。全開前の状態でも、彼らのたたずまいはそれを物語っていた。

それにしても演奏がワイルド。彼らにとっては長年演奏している曲ばかり、1曲目なんかデビュー曲だ。それが、「手慣れた」感じではなく、新人バンドのような荒さをもってプレイしている。今年出たベストに収録されていた新曲2曲も演ったのだが、そちらのほうが端正な演奏で意外だった(ふつうは逆だ。ちなみにこの新曲での演奏のキレはすさまじかった。)。

「堅さ」はすぐになくなって、本来のダイナミックさが出てきた。。僕も最初の「なんだかわからない」状態から、純粋に演奏に興奮できるようになってきた。
ともかく、動きがいい。ロジャーのマイクパフォーマンスもどんどんノッてきているし、ピートのギターも大音量で鳴っていて、腕もブンブン回っている。動く映像で何度も(そう、何度も!)見慣れたもののはずなのに、実際に観客として体験することは、もう全然違っていた。当たり前のことだけれど、これが本物の力だ。

持ち時間の関係か、代表曲がどんどん繰り出してくるというふうのプログラムは、ついに「Won't Get Fooled Again」に。あのシーケンシャル・リフを聴いていると、これが現実なのか夢なのかわからなくなってくる。誇張ではなく、「今、自分がザ・フーを観ている」という状態が、まだ受け止めきれていないのだ。先を走るバンドを一生懸命追いかけている感じだ。他のベテランバンドのライブではこんな気持ちにはならないのに。相手は4人中2人死んでいる、残る2人もほとんど還暦のバンドなのに。

「Won't〜」が終わりメンバーが去っていく。えっ、もう終わりなのか?25年も待ってこれだけか?とつかの間脱力していると、アンコールの拍手が始まった。もちろん僕も必死で合流して手を叩いた。僕は勝手に、こういうフェスではアンコールはないと思っていたのだ。すると・・。

出てきた。彼らが帰ってきた。つまり、ちゃんとアンコールの時間もあったということなのだが、そうとは知らない僕は大感激してしまった。
曲はイントロにたっぷりタメを入れた「Pinball Wizard」。これはある意味予想どおりだった。予想を超えたのはその後だ。ぼくは「Pinball」のあと、「See Me Feel Me」で大団円だろうと思っていたのだ。ところが彼らはその後、なんと「Tommy」をメドレーで演ったのだ。ピートが短く「Captain Walker didn't come home〜」と歌い、続いて「Amazing Journey」〜「Sparks」そして「See Me Feel Me」。
この、アンコールの間の感動と興奮をどう書けばいいのか、僕にはわからない。特に「Sparks」ではロジャーの「両手タンバリン」(ウ・ウ・ウ、ウッドストック!)も観られて、ちょっとどうしていいのかわからなかった。もちろんバンドの演奏レベルもとんでもなく、ひたすら押していく。
それにしても、ロジャー60歳、ピート59歳。とても信じられない。若々しいというより、荒々しい。未だに「完成」とか「円熟」なんて関係なしに演っているのだ。

キャリアの長いアーチスト、再結成したアーチストのコンサートも、今までずいぶん観てきた。その中には、がっかりしたものも、感激したものもある。しかしそれらのアーチストには、よくも悪くも「慣れた感じ」があった。
それがフーには一切ない。それは音量がどうとか、テンポがどうとかとは関係なく、演奏そのものが「現役」なのだ。「日本初上陸の伝説バンド」は、解散〜再結成〜メンバー死去と、数々の「修羅場」をくぐり抜けてきた。どんな言葉を使って彼らを評価してもその人の自由だが、ただ一つ、「もう彼らは現役じゃない」とだけは言えないだろう。それは、キースやジョンがいないというどうしようもない欠落(と、残った2人にも僕たちファンにもある悲しみ)とは関係ないのだ。ザ・フーは完ぺきに現役のバンドだった。疑う人たちには、この日のコンサートという証拠を突きつけてやればいい。

トリのエアロの途中で僕たちは会場を出た(もちろんエアロもすごかったが、今日だけはかんべん。なにしろフーなんだから)。駅まで歩きながら、だんだん感動が沸き上がってくるのがわかった。やっと実感できてきた。僕は今日、ザ・フーのコンサートを観たのだ。ずっと無理だと思っていた夢がかなったのだ。「じじいになる前に死にたい」と歌う彼らを初めて知った10代のころからすでに20余年。僕も、そして彼らも歳をとったけれど、まだなにも変わっていない。僕たちには、まだ「My Geneation」がリアルなのだ。