大統領選支援の敗北は、こんな素晴らしい作品を生んだ

shiropp2005-06-15

 ブルース・スプリングスティーン、新作のタイトルは「Devils & Dust」この人のレコードは、本当にタイトルがストレートですね。彼のファンならば、タイトルを読んだだけで、内容に察しがつく、あるいは一聴するとタイトルが腑に落ちる、そういう感じです。それが底の浅さや陳腐さにつながらないのが天才の天才たる所以なんでしょうね。今回もそう。なんのひねりもなく、「9.11以後」がコンセプトのアルバムです。
 音を聴いて連想するのは、間違いなく「Nebraska」や「Tunnel Of Love」あたりでしょう。ただその2作とは決定的に違って聞こえます。例にあげた2作は、ボスが自分の内側を強く見つめた結果出てきた音、歌です。けれども新作は、意匠としては同じですが、ボスがはっきりと「世界に向かっている」と感じられます。
 かつてのボスの代表作はどれも、いわば「一人称の歌」でした。それが「The Ghost Of Tom Joad」あたりから変わり始め、今回の成果になったと、そんなふうに思います。以前からストーリーテリングは見事な人でしたが、それが「ボスが一人称で歌っても、それは聴いているオレの物語」という、いかにもロックな感じから、今作では「知らない状況の知らない人たちの物語のはずなのに、それは今聴いている私の心で実感できる」という感じに進化しています。
 歌われている内容は明るくはありません。むしろ悲しいものが多いです。それでも聴いていると静かな感動が沸き起こります。それは、歌詞だけならば悲しい物語が、歌全体として届くとき、どこかしら希望を感じさせるような音楽だからだと思います。これは昔から変わらないボスの才能ですね。
 
 僕はボスの初来日公演を観ています。あれからもう20年(!!)。今でも変わらずファンでいる僕ですが、彼が21世紀に、こんなふうに素晴らしい作品を出してそれを聴けるなんて、やっぱり素晴らしい音楽家との出会いは、時を超えるものなんですね。