キング・クリムゾン第1回 民主的なバンド

 世界一民主的なバンド。これが僕がクリムゾンに対して思う第一の印象です。いきなり断定的ですみません。
 このバンドは何回か大きく音楽性を変えました。で、年長のロックファンが集まると始まるおなじみの話題の一つが「どの時期のクリムゾンを初めて聴いた?どの時期が一番好き?」というやつです。まるで違うバンドといってもいいくらい変わっているので、こういう話題が成立するんですね。で、もちろん代表は「宮殿」「太陽」「赤」あたり(最近は「ディシプリン」も高評価ですね)で、これはまあ当然なんですが、いろいろ尋ねていくと、けっこうどのレコードもそれなりに支持者がいますね。好き嫌いはあれど駄作凡作はなし、というところでしょうか。雑誌などの「クリムゾン特集」を読んでも、好きなアルバムより、むしろそれほど好きではないアルバムがけなされていた方がいやな気分になります。そんなふうにけなすなよ、悪くないじゃん、という感じ。それが「リザード」のような個人的にあまり聴きこんだことのないものでそう思うんですから、このバンドの水準の高さがわかろうというものです。
 僕個人は、今も現役でクリムゾンのファンをやっているので、どの時期もオッケーなんですが、やはり生まれて初めて聴いた「21世紀の精神異常者」(意地でもこの邦題使ってやる)のインパクトが忘れられない「宮殿」、まったく前知識なしで聴き、なのにまったく違和感なく名作だと確信した「太陽」あたりははずせません。あと意外な(?)ところで「アイランド」と「アースバウンド」。「アースバウンド」は現行のCDと違ってアナログではB面最後の「音の嵐」はまったくノイズそのもので、驚きあきれながら惹かれていきました。Lazyさんが「クリムゾンはドラム!」と書かれていましたが、このバンドのパーカッションの実力と閃きはただ事ではありませんね。マイケル・ジャイルス、ビル・ブラッフォードなんて、このバンドでとんでもない名演を残しています。マイケルの場合は、僕はあの「宮殿」の素晴らしさの何割かはあのドラムのおかげだと思っています。
 ところで、1行目の話し。これだけ多彩な音楽性と多様なメンバーが特徴のバンドなのに、なぜか固定ファンがいて、その音楽にもなにか通底音があるように思います。ふつうはこれはあのロバート・フリップだということになっていて、もちろんそれでなんの間違いもないはずなのですが、果たしてフリップは、ふつうの意味での「バンドのリーダー」なんでしょうか?ふつうのバンドリーダーのように「バンドの音楽すべてを仕切っている」でしょうか?
あの独特のギターが聴こえてくると、誰でも「あっ、フリップだ」と思うので見過ごされがちですが、きちんと聴いていると、楽曲全体ではむしろ彼は支配している感じがしません。「宮殿」のイニシアチブをとったのがイアン・マクドナルドであることは有名ですが、その後「ポセイドン」「リザード」といった、相対的にフリップ度が上がった作品でも、フリップの目立ち方は変わらないのです、僕の印象では。これはその後のどのアルバムなどでもそうなのですが、楽曲の中心にいるのはフリップではなく、他のメンバーなのです。個人的な印象ですが、クリムゾンに在籍した音楽家たちは、かなりの確率で、その人の名演はクリムゾン時代に残していると思います(マクドナルドやレイク、ジョン・ウェットンさえ!)。
 そして、フリップ自身のソロ(のレコード)を聴いても、ダイレクトにクリムゾンに繋がる感じのものは少ないのです。例えばポリスのアルバムとスティングのアルバムを聴くときに僕たちは「あ、同じ人」と思います。ボーカルが同じ人だからという以上に、音楽に「スティング色」があるからそう思って疑わないのです。誰が演奏していようと、それはスティングの音楽として機能するということ。これがクリムゾンとフリップに関してはあまり強く感じないのです。
 その時一緒だったメンバーの才能や技能によって音楽そのものが変質し、個々人に還元されない「グループ全体の音楽」として生まれてくるという不思議さ。スタイルではなく、音楽家がその時々の「キング・クリムゾン」を奏でるために触媒として作用する天才。そのうえバンド運営から広報、経理まで面倒をみる(?)敏腕のビジネス担当。独裁者のように言われることが多い彼ですが、とんでもない、僕にとっては、世界一民主的なバンドリーダーです。お、きれいにまとまったな(笑)。
 
追記:「あなたにとってクリムゾンのベストは?」と問われたら、、、三日三晩悩んだ末に「宮殿」を選ぶと思います。一番聴いたのは「太陽」ですが、やっぱり初めて聴いたのがこれなので。いやだなあ、計算したらまた20ウン年前だよ。こんなんばっかだなあ。
 今回は、音楽そのものというよりも、クリムゾンに対していつも感じている「不思議だなー」というネタに始終してしまいました。近いうちに音楽そのものをネタに書いてみますね。