リクエストのお応えして、盲目的信念はどこを目指していたのか?

 クラプトン関連のレコードで、レインボウのライブと双璧を成す低評価アルバム(すみません、最終的にはほめます)がこの「Blind Faith」ですね。クラプトンのファンからもウィンウッドのファンからも冷遇されている感じです。
 客観的に聴けば、確かに辛いものです。クラプトンのギターは煮え切らないし、ウィンウッドは実力が空回りしているし、他のメンバーも腕の見せ所がよくわからなくって、中途半端な印象です。僕はこのレコードを中学生の時に買ったんですが、聴かせた友人の誰もほめなかったのが逆に印象深いくらいです(まあ、スティーブ・ウィンウッド知らないやつがほとんどでしたから無理もない、かく言う僕も似たようなもんでしたし)。
 人が言うから名作だと鵜呑みにする聴き方が愚かなように、世評が低いアルバムのあら探しをするのもおかしいやり方です。当時のファンはスーパーグループを期待したのにかなえられなかった、そして未来人である僕たちは、中心の2人がその後どんな音楽人生を歩んだか良く知っているために、このアルバムを低く見てしまいます。ここはひとつ、なんでこんな作品になっちゃったのか考えましょう。そしてその愛し方も。
 このレコードの一番の泣き所は、これが「1枚しか出なかった」ということだと思います。いかにもなスーパーグループ、そしてもうひとつぱっとしない出来のアルバム、そしてそのまま消滅。けなしてくれと言っているようです。でももし、これが「グループのファーストアルバム」として考えてみたらどうでしょう。この後も何枚もアルバムを出し続けたとしたら。その後のアルバムでは音楽性も整理され、各メンバーのプレイもこなれていきます。大傑作を仮定しなくても、いい感じのグループとして活動し続けたとしたら、、。たぶんこのアルバムは、彼らの音楽が、成果を上げる前の揺籃期の作品として、ファンから愛されたと思います。「ああ、ブラインドフェイスのファースト好きなんだ?けっこういいよねあれも」てな感じで。
 冗談ではなく、僕はあのアルバムにも、様々な可能性を見ます。時期が悪かったために、メンバーの知名度に相応しいレコードは残せませんでしたが、クラプトンのギターはもろブルースからの脱却を試みていますし(そして、それなりの成果を上げていると思います)、リズム隊はかなり派手なのに手堅い感じ。ウィンウッドもそれ以前の「もろ白人ブルース歌手」から一歩踏み出しています。「Had To Cry Today」は冗長な曲ですが、これが枚数を重ねていくに連れてムダがなくなり引き締まっていくところを想像してみてください。そう、そう、そういう感じ。もしそういう歴史があったとしたら、このレコードは例えば現在の「Wings Wild Life」のような「荒削りで力を出し切っていないけれど、その後の彼らの要素はすべてある」という評価を得たに違いありません。実際、このアルバム、いいところも多いです。曲もアレンジも演奏も。ただもう一歩何かが足りなかった。それをもし時間(まとまった活動期間)が解決してくれていたら・・。
 歴史はそうは動きませんでした。「もし○○が××だったら・・」ばかりで音楽を聴いて、自分の中でゆがめてしまうのはおかしいです。でも結局は結果を残せなかったこのレコードを聴きながら、「彼らはどこへ行こうとしたんだろう」とちょっと考えてみると、実は今まで見えていなかったものが見えてくるんじゃないかと思っています。僕にとっては、実はけっこう聴く回数の多いアルバムです。

追記:
音楽のことをちゃんと書かなかった!曲はどれも素晴らしいですね。「Presence Of The Lord」や「Can't Find My Way Home」はもちろん、他の曲も。「Sea Of Joy」は間奏のバイオリンもいいし、ウィンウッドのボーカルも伸び伸びしていて名演だと思います。「Do What You Like」は長尺の曲なのに盛り上げ演出がなく、抑えた調子の中に高いテンションが感じられます。この曲の始まり方は、僕にはものすごくスリリングに感じられます。
スーパー・ジャイアンツ・ブラインド・フェイス