予想以上、マジックはなし(クイーンとポール)

 大歓声の中、朗々と歌うポールの歌声から始まるこのライブ。聴くか否か迷い続けたアルバムは、予想外の静かな調子で始まりました。最もそのあとすぐ、あの「Tie Your Mother Down」の聴き慣れたイントロで一挙にシフトアップしましたが。
 今や説明不要の今回の変則リユニオン。やっぱり「なかなかいい」という声が大勢を占めています。僕もある意味「覚悟を決めて」聴き通しました。
 違和感はありませんでした。これは本当に意外。ポールとフレディなんて、音楽のスタイルやキャラクターもひっくるめて正反対という感じなのに、無理矢理継ぎ足した、という感じはありません。えっ?と思うほど似ている箇所もあり、物まねや声の似ている歌手だからということではなく、確かにブライアンが「!」と思ったことはあります。これは偽らざる感想です。ポールの歌唱力がこんな場面で証明された、という言い方も可能かと。
 ブライアンもロジャーも相変わらずのプレイ。ベースはまあまあ、可もなく不可もない感じ(ジョンに比べれば、ですよ)、スパイクも含めて演奏のベーシックな部分では破綻しません。このあたりはロック界全体でもっと評価してほしいクイーンの特性が今も健在というところです。フレディ存命中はライブで演奏しなかった後期の3曲もなかなかいいです。というより、よくここまでがんばったと言ってあげてもいいのでは。面白かったのはポールのレパートリーの方で、常々ブライアンはあのギターの音色で演奏する曲のバリエーションに限界ありかなと思っていたんですが、そんなことはなかったです。逆にロジャーの、サステインの長いスネアがちょっと「Can't Get Enough」なんかには馴染まなかったように感じられました。地元イギリスで収録されたということで観客の盛り上がりも大きく、全体的にはいい内容でした。
 ・・・なんて、なんだか他人事みたいな書き方ですね。実際、楽しめました。悪くないです。しかし!
 やっぱりこれはクイーンではなかったです。うまく言葉にできないんですが、本当に「何かが違う」のです。もっともこれは当人たちのとっては当たり前のことかも知れません。メンバーの誰も、フレディの代わりを連れてきて「再結成ごっこ」をしたかったのではないのでしょう。だからアーチスト名も「Queen+Paul Rodgers」としてあるのでしょうね。その意味ではまったくけなしようがないアルバムです。
 もしかしたらこれは、「あのころ」を知っている往年のファンに向けた「プレゼント」なのかも知れません。ちょうど「Free As A Bird」がビートルズ名義で発表されても、正しくはあの「The Beatles」ではなかった、でもその時点での「彼ら」の誠意だったように。
 初めてのファンがいきなりこのライブからクイーンを聴き始めるのは、その意味で大変危険です。やっぱり、オリジナルのレコードを聴くべきでしょう。でも、ある程度以上のファンが、もっというと「フレディのことを憶えている」ファンが、つかのまそこにあの頃を見いだし、そしてうれしいことに「きちんとした、レベル以上の成果」であったとすれば、それは「クイーンか否か」という論議ではなく、「クイーンのメンバーからの贈り物」として、喜んで受け取れるものなのでしょう。今のところは、そんな感想です。

 追記:ポールのボーカルは、本当に予想以上のフィットぶりで、これはもっともっと評価されるべきですね。それと、新しいアレンジの「Hammer to Fall」はいい意味でビックリでした。ああ、横浜でコンサートやるんですよね。行こうかなあ?どうしようかなあ?リターン・オブ・ザ・チャンピオンズ(初回限定盤)