翻訳のできも素晴らしいです

 今日職場で、同僚がなにやら困っているのでなんだろうと尋ねてみたら、本を選んでいるんですとのこと。なんのことかと思ったら、4月の人事異動で昇格する人に向けたパンフレットに掲載する「新しい管理職に贈るこの1冊」てなコーナーで取り上げる本が足りなくて困っているんだと言うんです。毎年毎年ビジネス本や成功した経営者の自伝、それに「孫子」や「論語」あたりばかりなんで、特色を出したいのになかなか、、、という話し。「何かないですかshiroppさん。他の人と違う視点で」と振られたので、それならばと挙げたのが「ウォーターシップダウンのうさぎたち」(リチャード・アダムス著 神宮 輝夫訳 評論社)。
 これ、BS-2でアニメもやっていたらしいので(僕は未見です)ご存じのかたもいるかと思いますが、ウサギの一団が(予知能力を持ったうさぎの言葉を信じて)旅をして、新天地に住み着いて、、、という長編の児童文学です。登場するウサギたちがみんな生き生きと魅力的、ストーリーもとても質が高いと同時にエンターテインメント性も高くて、大人の鑑賞にも耐えられる作品です。ずっと前、80年代の始めくらいにイギリスで長編アニメ映画にもなっています。
 なぜ僕がこれを新しい管理職級に読ませようかと思ったかというと、この物語の主人公、旅の一行の長であるヘイズルというウサギの考えや行動が、集団のリーダーかくあるべし、というほど素晴らしいからです。この物語にはたくさんのウサギが登場します。力自慢の戦士、誰よりも足が速いもの、ウサギの神話を語る「語り部」、そして皆を危機から救う予言者ウサギ。それぞれが各々の能力に応じた活躍をしますが、実はヘイズルは、能力としては特別なものを持っていません。一番強いわけでも、早いわけでも、物知りというわけでもありません。なのにいつの間にか、彼は周りから統率者として認められ、村の長(おさ)になります。なぜそうなるのか、そこの部分を、新しい管理職級に知ってもらいたくて推薦したんです。
 あんまり書くとネタバレになるので伏せますが、この物語には、とうとう一度も華々しい活躍をしない1羽のウサギが登場します。主人公達と旅を続け、新天地の村にも一緒に落ち着いて、ずっと登場していますが、ストーリーという点では、ほとんど最後まで何もしません。平凡で特技のないそのウサギに、波乱に満ちたこの物語では活躍の場はありません。ではヘイズルはそのウサギとどう接し、なにを話し、どう行動するか。今し方「殆ど最後まで何もしません」と書きました。そう、すべての危機が去って、物語が終わりに近づいたとき、ある場面で控えめに(注意しないと読み飛ばしてしまうほどさりげなく)彼はある発言をします。
 ふとそれに気がついたとき、僕は本当に感動しました。それは、その彼(ピプキンという名前のウサギです)の発言(正確に表現するとある決心の表明)が、突然出てきたんではないということ、それまでの長い旅と苦難の中で、ヘイズルが彼に対してとり続けたフェアで相手を尊重した態度がそこに繋がったのだということ。
 個性を持った集団を目的のために動かすことは強いリーダーシップが必要です。でもそれ以上に、「相手を尊重する、減点主義的に見ない」態度こそが大切なんだ、ということ。ヘイズルは常にその態度を、どの相手に対しても貫き、仲間を思いやる気持ちを忘れません。だからこそ仲間達も、喜んで彼の決定に従い、力を発揮します。新しい管理職級には、何よりもその気持ちを持ってもらいたいなあと思って、この「ウォーターシップダウンのうさぎたち」の名前を挙げたんです。僕の組織も厳しい状況が続き、いい話はあんまりありませんが、そういう気持ちを置いていって欲しくないと思い、推薦しました。掲載してもらえるかどうかはわかりませんが(笑)。
 というわけで、今日の音楽はアート・ガーファンクルのベスト。「Germany」とジャケ裏にクレジットされている「Simply The Best」という輸入盤です。20曲も入っていてお買い得♪。このCDの1曲目の「Bright Eyes」が、長編アニメ映画「ウォーターシップダウンのうさぎたち」の主題歌なんです。なんでも当時、アートのうたうこの歌はイギリスで歴代で2位だか3位だかになる大ヒットを記録したんだそうです。この映画は日本でも公開され、その時の日本語版主題歌は井上陽水が歌っていました(持ってないです。欲しいなあ)。穏やかでどこか陰影のある歌声も魅力的な、とてもいい曲です。もちろんアートの唄もいうことなし。今日はこの曲に見送られて休みましょうか。おやすみなさい。