久しぶりに本の感想です

 昨日と今日、仕事関連の勉強&調べ物で、ほぼ終日机に向かっていました。とはいっても数時間もぶっ続けで没頭!というほどではなく、適当に気を抜きながら。で、こういうときは学生時代の試験勉強と同じで、無性に「関係ない本」が読みたくなっちゃいます。なのでその「読書」を息抜きにしました。今回は金曜日に買った2冊の本を読みましたんで、その簡単な感想を。
 「AppleジョブスのiPod革命(伊藤伸一郎著 ぱる出版)」ご存知アップル・コンピュータの創業者にして現在CEOスティーブ・ジョブスの評伝。著者は経営コンサルタントとのこと。スティーブ・ジョブスはマックユーザーには大変有名な人で、iMaciBook、そしてiPodなどここ数年のアップル大ヒット製品はこの人のセンスによるものといってもいい、そういう人です。ドラマチックな人生(ビジネスでも、プライベートでも)を歩んできた人なので、海外では評伝が何冊かあり、邦訳もありますが、日本人が書いたものとしては始めてかもしれません。また、書かれた時期の関係で、iPodiTunes Music Storeといった音楽関連ビジネスで成功してからは初のまとまったものになるはずで、その意味では興味津々です(申し遅れましたが、僕は10年前にパフォーマ買って以来のマックユーザーで、このてのアップル本は好きでけっこう読んでいます)。200ページ超でしたが活字が大きいのであっという間に読了しました。
 肝心の内容ですが、これまでのジョブスの評伝が、彼のやってきたことをいわば「インサイド」から迫る(元側近へのインタビューや、仕事で関わった人の話など)ものであるのに対して、この本は基本的に、ビジネスの結果を分析し、それをもとに「カリスマ経営者としてのジョブス」を浮かび上がらせようとしています。上にも書きましたが、ジョブスは社会人としても波乱万丈ですが、私生活でもいろいろなことがあった人なので、海外の評伝など読むとそのへんの話が多く出てきて、日本人としてはちょっと辟易していしまうときもあり、そういう意味では今回の著書の方が僕には読みやすかったです。
 ただ、じゃあ面白かったかというと、あまり面白くはありませんでした。理由は「ビジネスの部分で新事実が少ない」「すべて結果から判断するので、ただ今現在の成功模様は鮮明に出てくるが、後付けのような印象がついてまわる」というところでしょうか。なによりもこの著者に(好きであれ嫌いであれ)ジョブスという人に対する本当に意味での興味が希薄で、だから引きこまれるようなところがないからだと思います(実際にはけっこう大げさな表現なども多く、一文一文は熱があるのですが)。それは巻末の「参考資料」の少なさにも感じられます。著者はさかんにジョブスを「真のカリスマ(経営者)」と持ち上げますが、その理由としてあげるものがいかにも教科書どおりで、目を見張るものがありません。この本は僕のような熱心なマックユーザー、アップルになにア思い入れがある人間に向けてのものではなく、「大ヒット商品を出した企業の経営者を語る」という、よくあるビジネス本なのかもしれません。著者の本職を考えても、そう考える方が自然です。
 この本の最後では「ジョブスのようなカリスマ経営者」の(日本での)見本として「本田宗一郎」「孫正義」、そして「カリスマになり損ねた経営者」として「(ソニーの)出井伸之」を語っていますが、ここが一番面白かったです(いや、正直にういうと出井氏のところ以外は相当薄味ですが、相対的にということで)。この部分(日米のカリスマ経営者とそれになれなかった経営者の違いをさぐる)をもっと深く追及した本だったらもっと面白かったのに、と思います。意地悪く総括してしまえば、どこかの企業にコンサルで出向いたときにテキストとして出す「大ヒット商品を出せる経営者の分析」みたいな論文を作り直して出版したという感じですね。うーん、意地悪かなあ。でも僕、ちゃんとお金払って買ったんでこのくらいいいですよね(ちょっと不安)。
 もう1冊は、「友がみな我よりえらく見える日は」(上原隆著 幻冬社アウトロー文庫)。これはjinkan_mizuhoさんがご自身のブログで取り上げていたもので、それを読んで興味をもち、入手したものです。こちらは上のジョブス本とは全く違う趣でした。
 具体的な内容の紹介はjinkan_mizuhoさんの日記をご覧ください。僕の一読しての感想はjinkan_mizuhoさんや背表紙の「読むとなぜか心が軽くあたたかになる」というものとは少し違います(今は)。
 僕はこの本を読みながら、落ち着かない気持ちで活字を追いました。登場してくる人たちを思い描きました。ここには誰もが認める「恵まれた」「幸福な」人はいません。著者の眼差しは一貫して優しく、見当外れな同情や露悪的な文言もありません。名著といっていいでしょう。でも、、。
 落ち着かなかった。それは「ここには僕がいる」と感じたからです。具体的に誰、ということではありませんが、この本に登場するあんな人、こんな人、それぞれの人生のどこかに、かつての、そして現在の自分と似たものを感じてしまうんです。僕は、はた目からは「不幸な」人間ではありません。定職があり定収入があり、家族と住む場所があり、なんとか毎日を送ることができています。それでもなにか、うまく説明はできないのですが、この本の中のちょっとしたところに、ふと自分を見つけてしまいます。いや、そんな気がします。この本には続編(?)があるようなので、そちらも読んでみようと思います。そう、落ち着かなかったけれど「読んで損した」とはまったく思っていません。今自分の中で咀嚼している最中なんだと思います。良書をご紹介ありがとうございましたjinkan_mizuhoさん。
 さあ、もうそろそろ休もう。明日は月曜日だ。おやすみなさい。

友がみな我よりえらく見える日は (幻冬舎アウトロー文庫)

友がみな我よりえらく見える日は (幻冬舎アウトロー文庫)