ジョージの「出発点」

 ジョージの「Living In The Material World」がDVD付デジタル・リマスターで再発されました。
 このアルバムは、ジョージの作品の中でも評価の高いものですが、僕はこのアルバムは、「ジョージ・ハリスンのソロ時代・本当の始まり」だと思っています。このアルバムの前といえば、誰でも知っているあの3枚組がありますが、あのアルバムは確かにジョージの最高作ではありましたが、必ずしもジョージのキャリアすべてを代表しているようでもない、と感じていました。あの力いっぱいの楽曲群も、ものすごく分厚いアレンジも、「すごい!ジョージがここまで!」とは思っても「これぞジョージ!」という感じではない、そういうふうに。後付けの感想なのかもしれませんが(僕がジョージのソロを聴き出したのは70年代の終りくらいです)。
 僕が最初にこのアルバムを聴いた時の感想は「音が整理されてないなあ」というものでした。アレンジも演奏もどこか粗い・音がたくさんするんだけど全体に「ありすぎてうるさい」という感じ。ヘッドフォンで聴いているとなおさらそういうふうに感じました。ちょっとポールの「Venus And Mars」にも通じる「にぎやかなまとまりのなさ」。時間がなかったわけでもないジョージが、なんでこんなことしたんだろう?と思っていました。で、ジョージの全活動を(悲しい事に)俯瞰してみることができる今の僕は、こう思っています「ジョージは、『All Things Must Pass』でずっとため込んでいたものを一気に吐き出して、『Living〜』からは、本来の自分の音楽を奏でることに専念しはじめた、その第一歩だったんだ」と。整理されていないんではなくて、まだこなれていないだけだったんですね。
 注意して聴いてみると、今ではみんなが知っていて愛している「ジョージの、あの感じ」は実はこの「Living〜」から始まっているとわかります。特に強く思うのは曲調です。「The Light Has Lighted The World」や「Who Can See It」あたりは、例えば「33&1/3」や(僕は大好きな)「Extra Texture」に収録されていてもおかしくない曲だし、アレンジも、3枚組の「ウォール・オブ・サウンド」より、このアルバム以後のジョージの作品の方に共通するものが多いと思います。ジョージのこの試みは、結局「George Harrison」で完成しますが、ジョージの仕事の大部分に共通する「あの感じ」、大上段にかまえた歌詞や、あんまり時代性に頓着しない音楽性も含めて、この「Living〜」にその萌芽があると思います。
 それにしても今回の再発、パッケージもていねいな作り、ブックレットも美麗、解説も充実していて、アナログとCDでもう持っていた僕も「買って良かった」と思わせてくれるものでした。コピー・コントロールじゃなかったし(笑)。これで「All Things〜」に続いてのデラックス仕様の再発。次は「Dark Horse」かなあ?楽しみですね。
 追記:本文に書き切れなかった「ネタ」です。
 その1・・付録のDVDに日本公演の映像がまた!前の「Dark Horse」箱にも入っていたし、つまり、間違いなく全編撮影しているということですよね。もったいぶってないで、まとめてリリースしてくれないかなあ?
 その2・・今回クレジットをじっくり読んでいてビックリ!ギターはすべてジョージ本人だったんですね。「Sue Me Sue You Blues」はジェシエド・デイヴィスが取り上げていたんで、勝手に参加しているんだと思っていました。ジェシだと言われてもわからないほどの「南部っぽい」演奏で、刮目しましたよ。
 その3・・日記の方に書いた「楽器の音が多すぎて、整理されてない」というのは、特にタイトルナンバーで強く感じるものでした。今回のリマスターでどうなるのかなあ?と聴いたんですが、全体的な印象は変わりませんが、さすがに少し整理されたかなあ、という感じにまでまとまってましたね。でもこの曲、ジョージの曲にしてはぶっ飛んでませんか?僕はそういうふうに感じます。理屈や配慮ではなく、歌いたいというモチベーションだけが突出してしまった感じで、僕は密かにジョンの「I Don't Wanna Be a Soldier」ポールの「Monkberry Moon Delight」と同系列の曲だと思っています。3曲とも大好き。これにリンゴの「Goodbye Vienna」を足したら無敵ですね。

Living in the Material World (W/Dvd)

Living in the Material World (W/Dvd)