1977年の「ビートルズリミックス」曲

 来週になると例の「Love」が発売になりますね。あれの売りの一つに「ビートルズでリミックス」というものがあります。ちゃんと確認をとったわけではないんですが、確かビートルズはサンプリングネタなどへの楽曲使用をいっさい許可しないと聴いたことがあります。本当の話かどうかはしらないんですが、そういえばビートルズの音が入ったヒップホップというのも聴いたことがないですね。これはやっぱり事実なのかな?ビートルズほどでなくても、大物になればなるほど、そういうものに許可を与えないようですね。僕はしばらく前にロックのメジャーな曲をベーシックトラックにしたヒップホップもののCDを聴きましたが、それを売っていたCD屋での宣伝コピーが「(サンプリングされたオリジナルの)アーチストには口頭で許諾済みらしいです。自主規制される前にぜひどうぞ!」というものでした(大笑)。確かに許可を出してみたらものすごいライム乗せられて困っちゃうとかいうケースもありそうですから、神経質になるのもうなずけます。
 で、ここから本題です。ビートルズのサンプリングは出来ない、出来ないとぼんやり考えていたら、ふと頭をよぎりました「聴いたことあるぞ、ビートルズがたくさん出てくる曲を」。記憶を辿っていったら、でてきました、ザ・レジデンツ
 この人たちをご存知の方は、多数ではないにしても、決してごく少数でもないはずです。名前でピンと来なくても、「巨大な目玉親父がタキシードとシルクハットで決めている」写真を見れば、記憶にある方も多いと思います。30年にも及ぶ活動で(現在も活動中のはず)一度も素顔どころか素性も明らかにせず、一貫してアメリカ政府、大量消費社会を批判し続けている独特の活動は、ロックという表現の一つの極北という趣で、一般的な知名度やセールスからは計れない不思議な存在感を持っています。僕はアルバムを数枚とビデオを持っていますが、どれも一種の「悪意のある諧謔」とでもいうものがあり、魅力的であると同時に(本当に正直言っちゃうと)「きつい」です。
 そのレジデンツの4枚組ボックス「Our Tired,Our Poor,Our Huddled Masses」の中にあるシングル集に、1977年のシングル「The Beatles Plays The Residents and The Residents Plays The Beatles : Beyond The Valley Of A Day In The Life」という長いタイトルの曲があります。これが、約4分間最初から最後までビートルズ(一部ジョンの「God」や、たぶん映像作品から取り出したに違いないポールやジョンらしき人の声)の曲の断片でできています。冒頭「A Day In The Life」のコーダのアタックから始まり、「The End」のドラムソロのループに乗って「Tell Me What You See」のサビが繰り返され、そこからはもうめまぐるしく曲の断片がわき上がってきます。中盤で「Love You To」のイントロにかぶって「Blue Jay Way」のボーカルが聴こえてくるところ、最後「Hey Bulldog」のあのベースにシンクロして何度も繰り返される「She Loves You」の「Yeah! Yeah! Yeah! Yeah!」など、センスはただものではないですが、きっちり「悪意」のようなものは伝わってきます(笑)。
 こう書くとなんだかすごく不愉快なもののように思われるかも知れませんし、実際、誰にでもお進めできるものではないですが、僕はぎりぎり受け入れます。理由は2つ。構成のセンスがただものではないこと。どうせやるならここまでという感じで、最近のヒップホップの「有名曲の有名リフだけとってきました」的な部分がまったくなく、一つの作品として作り込んでいます。77年当時ではデジタル機材も、サンプリングマシンもなかったころですから、基本的にテープ編集だったはず。それでここまでやり遂げたのは快挙といっていいでしょう。
 もう一つの理由は、、、えーっと、「他のアーチストへの悪意に比べたらビートルズはまだましなほうだから」(笑)。今回取り上げたシングル集には「Satisfaction」とか「Don't Be Cruel」とか、「どっかで聴いたタイトル」満載ですが、そちらの作品は、もっとすごいことになっています(サンプリングではなく、レジデンツが演奏してます)。僕の持っているビデオには「Don't Be Cruel」のPV(?)が収録されいましたが、それはもう、エルヴィスに対する「負の敬意」に満ちていました。それに比べたらねえ、というわけです(笑)。
 このシングルが作られた当時は、今のような権利意識や、そもそも「サンプリング」という概念自体がなかったころですから、こんな作品が公式に発表可能だったんでしょうね。正直、ビートルズファンのすべてに受け入れられるタイプのものではないですが、どこかで聴く機会があったらぜひお試しください。でももし聴いて腹が立っても、僕は関知しません。直接レジデンツに言ってくださいね(笑)。

Meet the Residents

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