日野日出志先生の個展に行ってきました。

 今日は銀座に行ってきました。今月の25日まで漫画家の日野日出志先生の個展があり、今日はサイン会があるという告知があったのです。日野先生の漫画は、小学生のころ読んで、それこそ夜も眠れないほど怖かった思い出があります。作者の名前を聞いてピンと来ない方も、絵を見れば「あっ!」ということ間違いなし。それくらいインパクトがある作品です。気持ち悪いというかグロテスクというか、とにかくひとコマひとコマが強烈。ストーリーももちろんこわいのなんのって。僕は友人から借りて読んだのが最初でしたが、回し読みでクラスの男子の大半が読み、その後のみんなの怖がりようは今思い出すと可笑しいほどでした。でも、ただ怖い、ただ気持ち悪いだけではなくて、作品の力がものすごい。だから子供心にも「これはただものじゃない」という気持ちがあり、実際この人の作品を超えるものは、その後出会うことはまれでした(僕の場合は、この人に並ぶのは丸尾末広と巨匠佐伯俊男だけです)。
 個人的な思い出ですが、この人の「蔵六の奇病」という作品は、極めつけのグロテスクさが印象的であると同時に、本当の哀しさ・切なさを感じて、ずっと忘れられないものでした。ここではストーリーなどは書きませんが、主人公の芸術に対する素朴な気持ちと、数々の恐ろしい出来事がそれをまったく予想もしない方向に運んでいってしまう物語は、僕にとっては本当の名作です。昨年復刻された「地獄の子守唄」にも収録されていて、今読み返しても初めて読んだときと全く変わらず感動的でした。
 今日の個展は、先生の代表的なホラーまんが「地獄の子守唄」「地獄小僧」「わたしの赤ちゃん」などをモチーフにした絵と、未発表の短編まんがを原画で展示したもので、どれもこわくて、グロテスクで、美しかったです。特に短編は、作品ごとにメインのカラーが違い、「人魚残影」の緑「赤い実」の赤い色は、とても美しかったです(今日購入した画集にも収録されていますが、あの色の妖しい美しさは印刷では再現できていませんでした、残念!)。
 実はサイン会は4時から始まるということだったのですが、2時過ぎにギャラリーに入ったところ日野先生がいらっしゃって、言葉を交わすことができました。「先生の作品で眠れない夜を過ごしました」と話すと、にっこり笑って「いやあ、それはどうも」とおっしゃったのが面白かったです。そのときギャラリーにいたお客さんも笑っていたので、きっとみんなそうなんだろうな、と思っちゃいました。ギャラリーで購入した画集にサインしてもらい、ついでに持参した「地獄の子守唄」にもとお願いしたところ、快く応じてくださり、今僕の手元には先生のサイン入りのご本が2冊あります。握手してもらいながら「小学生のころ『蔵六の奇病』を読んだときは、怖いというよりも感動しました」と話したときにも笑顔で答えてくださいました。素顔の先生は、知的な泉谷しげるという感じの風貌でしたが(比喩に他意なし)、とても柔和な感じで、このようなヒトからあの作品群が生まれたのか、と思うと不思議な感慨があります。
 前回の日記のレジデンツもそうでしたが、日野先生の作品も「誰にでもお勧めできる」というタイプのものではないですが、もしも機会があったら、ちょっときつくてもぜひ読んでみてください。特に「蔵六の奇病」は、涙なしには読めない作品だと思います。

地獄の子守唄 (マジカルホラー (3))

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