複雑な気持ちで、でも楽しんでもいます(ビートルズ「Love」)

 今回の「Love」の経緯について、正直なところはもう書きました。やっぱりどうしても「これより先にやることがあるでしょう」という気持ちは払拭できません。考えてみれば、「Let It Be」のDVD化もまだだし(「Help!」もまだだった)、やっぱりファンとしては一言いいたくなってします。
 以前、エルウ゛ィスやビートルズについて、権利者の孫の代くらいまで儲けるようなプランがすでにできている、という話を聞いた(読んだ)ことがあります。具体的なことはなにも書かれていませんでしたし、そんなこと本当に可能かもわからないんですが(孫の代になる前にパブリック・ドメインになっちゃうだろう)、そういう思惑があるのでは?と思わせるような動きをしているのも一面の事実だと思います。関係する人間の数も、動く金も桁外れでしょうから、なんでもファンの思うとおりではないでしょう。でも、それにしてもオリジナル作品の音質向上やかつて公式発表した作品の再発売などがちゃんとできないというのは、やはり問題だと思います(ファンに支えられているという側面から考えて)。タイトルの「Love」というのもなんだか媚びたような感じで首をひねってしまいます。
 今回の作品については、KENNYさんも書かれているとおり、「ビートルズの最新作!」という売り方はやはりまずいと思います。そうではなく、あるイベントのサウンドトラックという位置づけであるなら、もっと穏やかに受け入れられたと思います。「ビートルズのオリジナルマスターをサーカスのために編集させた」ではなく「斬新な演出で世界的に評価されたサーカスの新作のために、主宰者はビートルズの音楽こそ必要だと考え、それにアップルと元ビートルズのメンバーが応え、ついには従来許可されていなかったマスターからの編集までこぎつけた」と、シルク・ド・ソレイユを主語にすればよかったのでしょうね(それでも、今月号の『レコード・コレクターズ』での持ち上げようは違和感ありますが)。
 それで、肝心の中身ですが、「すごい!」と思うところ、正直多かったです。僕はもともとメガミックスもの(マッシュ・アップもの)が嫌いでないので、すぐに入り込んでいけました。「Drive My Car」は素直にすばらしいと思いましたし、「Tomorrow Never Knows」のバックに「Within You Without You」のボーカルが乗るところ、「Mr. Kite」の最後に「I Want You」が繋がるところなど、見事です。全体的に「あーあ」というところは少なかったし、なによりも音質は素晴らしく、その意味でも聴く価値はあります。細かいところにはそれなりにコメントもありますが、全体的に「こりゃだめだ」というものではなかったです。思いがけないところに思いがけない曲が顔を出すのはそれなりに楽しい体験です。「これ、なんだったっけ?」と考える楽しさは、ちょうど「Free As A Bird」のPVを観ながら元ネタを探すのに似た「ファンならでは」の楽しみでしょう。そういう意味では楽しかったです。楽しんでいます。
 ただ、やっぱりふと「これがフルコーラス聴けたらなあ」と思ったのも事実です。収録されている曲には、断片としてしか登場しないものと、それなりにまとまった時間使用されているものがありますが、何回か聴いていると、やっぱり長時間入っている曲の方に興味が向いてきます。「Hey Jude」なんて、短縮バージョンにしたり編集したりされて、思わず「フルコーラス聴きたい!」と思ってしまいました。ビートルズファンとして、僕にはそれが正直な感想です。やっぱりまず、全曲リマスター、公式発売が先じゃないか、こっちも本音です。
 そして、もうひとつ、聴いていて思ったのは「これは実際に『シルク・ド・ソレイユ』を鑑賞したい」です。モノがビートルズなので僕のような人間はこれだけで判断しようとしてしまいますが、もともとはサーカス(と言っていいのかなあ?もっと適切な用語があるんでしょうか?)のサウンドトラックですから、やっぱりそれを観ないと話にならないところもあるはずです。だから、ぜひ来日公演は実現させてほしいですね。でも実際に観に行ったら、目をつぶって音楽だけ聴いてたりして(笑)。

 追記:「All You Need Is Love」について、レココレでは「Yellow Submarine Songtrack」に対する、ジョージ・マーティンの回答だというようなことが書かれていましたが、そうなのかなあ?僕は正直、「YS Songtrack」も素晴らしい仕事だと思いますので、そういう対置は違うんじゃないかなと思います。



LOVE (通常盤)

LOVE (通常盤)