追悼 実相寺昭雄

 今日仕事から帰ってきて新聞を広げたら、「実相寺昭雄死去」の記事が載っていました。
 もちろん僕が一番身近に感じる実相寺作品と言えば、「ウルトラ」シリーズの諸作品です。ガバドンが登場する回、スカイドンが登場する回(すみません、タイトル忘れました)、ジャミラが登場する「故郷は地球」(以上ウルトラマン)、「狙われた街」「第四惑星の悪夢」「円盤が来た」などのウルトラセブン作品など、子供心に「他の番組とはなにかが違う」という感じを持ったもので、つまりそれだけ実相寺作品には強烈なカラーがあったということですね(第四惑星なんて、夢に見るほど印象的でした)。映画作品というと「帝都物語」や「ウルトラQ」など、少数の作品しか知らなくて、そちらはそんなにものすごく感動した訳ではないんですが、それでも映像のひとつひとつはものすごく印象的でした。もうずっと前ですが、NHKでやっていた「おしゃべり人物伝」という番組で、いつもとは全く違う演出の回があり、なんだこれは?と最後まで観ていたら、エンドクレジットで「監督:実相寺昭雄」と出て「なるほど!」と思った記憶があります。上記のような僕には、この人の映像についてあれこれ語ることはできないんですが、子供のころに受けた「ウルトラの衝撃」とでもいうものは、今も自分の中にしっかりとあります。
 この夏、ちくま文庫の「ウルトラマン誕生」という本を読みました。過去の著作の再刊だとのことでしたが、僕は初見でした。読んでみて一番驚いたのは、著者が繰り返し繰り返し、自分以外のスタッフを賞賛するところでした。自分が脚本を書き、監督し世に出た作品について、詳細に解説しながら、その一場面一場面を完成させるために、どれだけの人が携わり、努力しているかを細かく書いているのです。あれほど強烈な個性を持った映像作家である氏なら、もっと「もろ芸術家」(記号的な意味で)な内容だろうと高をくくっていたんですが、その予想は見事に覆されました。映像が出来上がりオンエアされるために、どれだけ「陰で支える」人たちが努力しているかが綴られた本でした。本当に全編そう、といっていいほど、細かく細かく、どのカットではどんなスタッフが働くか、ぬいぐるみの造形現場の苦労、カメラアングルの苦心、光学合成のテクニックなど、撮影現場の「真の主役たち」のことが、尊敬のまなざしで語られています。
 それはちょうど、ウルトラマンや初期の怪獣のデザインを成しながら、後に円谷プロと袂を分かった成田亨氏と好対照です。成田氏がウルトラシリーズのコマーシャルベースでの拡大路線を厳しく批判されたのに対して、実相寺氏は「よく、ぼくも、いろんなところで、『これだけ長いことウルトラマンがヒーローとして人気が続く秘密はなんですか?』と聞かれる。そのとき、ついウルトラマンを創作した人やデザイン上のかたちや、シリーズとしての話の展開や雰囲気に頭が回ってしまうけれど、ながく生きつづけているほんとうの秘密は、オリジナルを大切にしながら、時代の変化と要請にこたえて、絶やさず、花に水を注ぎつづけた影の支えだと思うようになった」(本書、円谷皐氏のインタビューの中での実相寺氏の文章)と、そうした商業的な展開も含めて「いまでも、これからも、怪獣に夢見る男たち」と称えています。図らずも今年読んだこの本で、僕は実相寺氏が、僕が勝手に想像していたようではなく、ずっとスケールの大きな人だったんだとわかり、感動しました。映画監督という立場から見えたに違いない、現場の苦労や達成を暖かいまなざしで見ている、そんな意外な(すみません失礼な書き方で)人柄に触れられた本でした。これを読んでから、僕は実相寺作品(ほとんど上記のウルトラシリーズです)を見るときの気持ちが変わりました。
 実相寺氏も世を去り、ウルトラの偉人たちも少しずつ「光の国」に旅立っていきます。僕たちが子供の頃、息を飲んで楽しんだあの映像やあのストーリーを創ってくれた実相寺監督に、謹んでご冥福をお祈りいたします。どうぞ安らかにお休みください。

ウルトラマン誕生 (ちくま文庫)

ウルトラマン誕生 (ちくま文庫)