暖かい歌声に反省と感謝

 某閣僚の某発言で大騒ぎになっています。その話を妻としていて僕が「まあ、どうせああいう発言は絶えることないんだから、笑い飛ばしてしまえばいいのにねえ」と口にしたとき、妻が真面目な顔で「それはおかしい!」と反論してきました。ああいう発言だからこそちゃんと抗議しなければ、あのような話をする人間が国を動かしていることを認めてしまうことになる、それにあの人は少子高齢化問題を解決する中心にいる人ではないか(ああ、書いちゃった。某なんてした意味なくなっちゃった)、単なるデリカシーの問題ではなく、資格品格の問題だ。とまあ、大意そういうことを言われました。日頃うちでは僕があれこれ自説を述べ、妻は聞き役ということが多いんですが、今回はそうではなかったです。そしてこれについては、僕は一言もありませんでした。僕は問題を言葉にだけ限定していたようで、妻は発言の元がなにであるかを観ていたということです。これは妻が正しいですね。反省をこめてここに書いておきます。
 キャロル・キングの音楽、ここでは例として「つづれおり」を挙げますが、そこにあるのは一人の女性が自然に、正しく生きていくことがいかに美しいことかが現れています。「You’ve Got A Friend」「So Far away」「It’s Too Late」などの名曲ももちろんですが、「You Make Me Feel A Natural Woman」などまさしく一人の女性の「自然な姿」に感動してしまいます。「つづれおり」が世に出たころはまだ、女性アーチストが自分なりの活動をするには大変だったと思いますが、告発や主張という形をとらずに、これだけ美しく、そして凛とした作品を作る事ができたというのは驚きです。ジャケットも含めて大好きなアルバムですが、ポップスの作品として好きであるという他に、よき女性であるということは、他のなにかではなく、よき人間であるんだということを僕にわからせてくれます。僕のような鈍感な人間にも。
 今部屋に「Living Room Tour」が流れています。これは2005年に発表されたライヴ・アルバム。この前年にやっていた同名ツアーの模様を収めたもので、比較的小さなハコでの演奏会のようです。一番最初に「私のリビングルームにようこそ。至らない事もあるかもしれないけど許してね。なにしろ62歳だから、歌いたい歌は山ほどあるのよ♪」と歌い、そこからはある意味でオールタイムベストといっていい選曲で歌が続きます。バックの演奏は基本的に本人の弾くピアノのみ。それに少しだけアコースティックギターとコーラスが乗る程度。「Where You Lead I Will Follow」ではお嬢さんと一緒に歌っています(以前「GAP」のCMに出ていた、あのお嬢さんでしょうか)。
 他人に提供した曲も多いキャロルらしく、「Take Good Care Of My Baby」や「Will You Love Me Tomorrow」「I’m Into Something Good(朝からゴキゲン)」などをメドレーで演奏したり、ビートルズもカバーした「Chains」もやっています。どの曲も落ち着いて、それでいて「枯れた」というよりは艶を増したような演奏と声。そう、ピアノもそうですが、声が本当に衰えていなくて(多少は高音部がきつそうなところがありますが、まったくオッケーなレベルです)、むしろ昔よりも表現に深みがでてきたんじゃないかとさえ思えます。
 上に「小さめのハコ」と書きましたが、そのせいか観客のムードもとてもよく、要所要所で合唱が入ります。「Natural Woman」でキャロルと一緒にサビを歌っているのはきっと全員女性なんでしょうね。このアルバムでは「Natural Woman」は最後から3曲目で、次に「You’ve Got A Friend」、そして最後には「Locomotion」が始まります。ゆっくりとバラードのようにワンコーラス歌い、ふっと歌とピアノを止めて一言「テンポ上げる?」。もちろん観客は大喝采。曲の最後は「Come on come on do the Locomotion〜」でためて「〜in my living room♪」で締めるという鳥肌モノのエンディング。それにしても本当に気品あふれるアルバムです。
 彼女の作品は、それなりに出来不出来はありますが、この気品が失われたことは(僕が知っている限り)ありませんでした。僕は彼女を心から讃え、敬意を表したいと思います。僕のような人間にも女性の価値は特殊なものではなく、人間としての価値なんだということをわからせてくれる彼女に。最初に書いたようなことを考えるがさつな親父ですが、今夜は反省と感謝をこめて、一緒に「You make me feel like a natural woman」と歌いたいと思います。

Living Room Tour (Dig)

Living Room Tour (Dig)