テクノも年月を重ねる

 キリンビールのCMでYMOが「再結成」して、「RYDEEN 79/07」を演奏していますね。で、この曲、もうiTunes Storeで販売されています。昨日ダウンロードしました。ダウンロードのときにユーザーレビューを見てみたら、ものすごい数になっていました(2月8日現在119件)。少し読んでみたら、あるわあるわ、「懐かしい」「あの頃を思い出す」「また会えるなんて」「涙が出てきます」などなど、たぶん僕と同世代と思しき人たちのこえ・コエ・声。ちょうどソニーウォークマンが出始めたころだったと記憶していますが、あの頃、もう本当に売れていましたからねYMO。やっぱり大したものです。
 で、ここで突然懺悔ですが(笑)、好きではありませんでした、YMO。本当です。僕は「Solid State Surviver」が出てすぐくらいに聴いていて、それなりに聴き込んだんですが、なんだか好きになれなかったんです。年齢バレバレですが、僕の高校1年から2年くらいの時期がYMOのバカ売れ時期と重なります。その頃はちょうどパンクからニューウェーブが台頭してきた時期で、僕はビートルズやフーとともに、クラッシュとかジャムとかストラングラーズとかを聴いて盛り上がっていたんです。そんな僕にとってYMOというのは「テクノロジーに魂を売った音楽」(すみません)「現実を変える力のない音楽」(ほんとすみません)でした。ちゃんとLP持っていたくせにそんな風に考えていました。いかにも若造ロックファンでしょ。「増殖」や「スネークマン・ショー」はクラスの誰よりも早く買い、「ロックはいいものもある、悪いものもある」だの「ヒアウイゴー・エブリーボディー・カモン・ロックンロー」だの騒いでいたくせにです。ええ、ええ、一貫していません。でもそういう立ち位置が自分だと思っていました。
 僕がYMOと「再会」したのは結局、イギリスのジャパン(デビッド・シルビアンがいたバンドです念のため)の「Gentlemen Take Poraroid」などを聴く中ででした。洋楽ファンの悪い癖ともいえますが、一種の「逆輸入」のような形でまた親しく聴くようになっていったんです。YMOはそのころもう「テクノデリック」を発表したころで、今から考えるとずいぶん後期になるんですが、遠回りして聴き返したという感じでした。
 和製英語だった「テクノポップ」(坂本龍一の造語だと聞いたことがあります)はいつしか「Thecno」となり、その音楽は形式や呼び名を少しずつ変えながら現在に至る世界的流れになっています。ふと考えてみると、ものすごく大きな出来事を十代で体験しているんですね。僕は上記のように「半身を引いていた」クチですので偉そうに言えませんが、iTunes Storeのレビューでたくさんの人が(今回の「再結成」を)感動しながら迎えているのも頷けます。
 さてその「RYDEEN 79/07」、CMタイアップなのでかつての曲を完全コピーするのかと思ったら、まったくムードが違うものになっていてびっくりです。最初聴いた時は「ん?3人で軽く合わせただけなのかな?」と思ったんですが、何度か聴いていたら印象が変わってきました。これは、ちゃんと最近の音になっていますね。不思議なパルス調のリズムに乗って、トイピアノのような音で奏でられるメロディ。アコースティック・ギターのような音色、ドラムの音も含めて、エレクトリックなものとアコースティックなもの(本当にアコースティック楽器かは不明)を上手にブレンドしています。本来なら大いに盛り上がるこの曲を選びながら、あえて抑えた調子で演奏しているところに僕は感慨があります。僕は「テクノは歳をとらない」と勝手に思い込んでいました。でも当然ですが、それを創造し、演奏する人間はそうではありません。聴き手ももちろん歳を重ねていきます。その積み重なった年月が、今回の静かな「Rydeen」に表れていると思うんです。その意味で、「RYDEEN 79/07」は、あのころからYMOを愛してきたファンへの贈り物であると同時に、あのころから積み重なっていった時間にもとても正直な音楽なんだと思います。
 追記:このCM、ちょっと前に「タイムマシンにお願い」をやっていましたよね。あちらはサディスティック・ミカ・バンドでしたが、ふと気づいたら、どちらにも高橋幸宏さんがいます。さすが!