題名のない音楽会でミシェル・ルグランに感激

 昨日の「題名のない音楽会21」では「団塊の世代が選ぶ映画音楽」の後編でした。団塊の世代の、というだけあって昔の映画が多かったですが、なかなかのセンス。というか、映画音楽が思いっきりロマンチックだった時代の音楽ですし、時代的にもオーケストラアレンジがぴったりくるようなメロディ、ハーモニーですから、もうどれも「いいなあ」と思えます。僕の妻は僕より歳下で、いわゆる「ガンダム世代」(笑)くらいなんですが、このへんの映画音楽が大好きなんだそうで、先週も今週も、ものすごく楽しそうでした(番組の途中からはなぜか母もやってきて、一緒に盛り上がっていました)。
 で、僕ですが、もちろんミシェル・ルグランの登場で最高に堪能しました。今回はこの番組のためだけに来日したんだそうで、先週は「風のささやき」今週はあの「シェルブールの雨傘」を演奏(ピアノ弾き振り)していました。これが実に堂々とした演奏で、変に巨匠ぶらない表情も素敵でした。先週演奏した「風にささやき」は、もう20年以上前にテレビで観た「華麗なる賭け」の主題歌で、僕はそのとき(しか観る機会がなくて、つまり1回しか観ていません)「なんておしゃれな映画だろう!?」と驚嘆し、そしてその音楽にも感動したのを思えています。それがルグラン初体験でした。そのころは検索エンジンなんてこの世になくて(少なくともうちには)、作曲者が誰であるかを知ったのはその数年後でしたが。
 そして「シェルブールの雨傘」。これは説明不要でしょう。この演奏では、なによりも羽田健太郎さんが本当にうれしそうに話しをし、共演しているのが印象的でした。トークの途中でハネケンさんが、ピアノで曲のフラグメントを奏でると、すかさずルグランが伴奏を始めるというシーンがあり、これはなかなか観られない名場面だったと思います。ちなみにそのとき、後方にいるオーケストラの人たちも実に興味深そうに2人を眺めていたのも印象に残りました。
 実際の演奏は、ルグラン、ハネケン2人によるピアノ2台とオーケストラという贅沢仕様。全体の指揮はルグランが行い、ピアノの陰になって指揮が見えないパートのために一部ハネケンさんが振るという、これまた贅沢な布陣。「シェルブールの雨傘」として有名なあの曲は、映画の中では男女2人の歌がメロディーを奏でるんですが、今回は2台のピアノが各パートを分け合っていました。これって、考えられないほど豪華ですよね。僕はすっかり興奮してしまいました。演奏の華麗さには定評のある2人が、極めつけの名曲を心を込めて演奏する姿は素晴らしいものでした。
 ハネケンさんは作曲家と曲に対する尊敬を隠そうとしない真剣な演奏だったのに対して、ルグラン本人は実に優雅で、指揮ぶりや表情も含めて本当に絵になっていました。僕は漠然と「優雅で華麗、2人とも同傾向の演奏」と思って聴いていたんですが、2人並んで弾くと、違いがわかります。ハネケンさんはやっぱりクラシック出身だなあという感じの、適度に重さを持ちながらの端正な演奏。対してルグランは、驚いたことにハネケンさんよりもずっと力強く、変な表現ですが「ジャズ的」でした。ルグランには(意外な事に)ジャズ系の名作がけっこうあるんですが、ハネケンさんと共演する事で実にわかりやすく、そのへんの特徴が出ていました。素晴らしい演奏に感動したのと同時に、そういうこともわかって「得した」気分です。
 この日記を書いている今、部屋の音楽にはルグランとステファン・グラッペリの競演盤を流しています。ストリングとジャズのリズムセクションをバックに、これまた「優雅」という形容がぴったりの演奏が続きます。でもこの人のレコードは、どんなに甘くても、どこかにちょっと苦みがあって、それが凡百のイージーリスニングと違うところです(もちろん作曲家、ピアニストとしても全然格が違いますが)。
 番組中で話していましたが、ルグランは秋に来日公演をするらしいです。僕はまだ一度も生のルグランを観ていないんですが、今度は行ってみようかな?
 追記:そういえば、「映画音楽ベスト30」に、「West Side Story」入ってたっけ?