映画「ドリームガールズ」

 映画「ドリームガールズ」は日米とも大好評だったようです。僕のまわりでも観た人はみんな「よかった」と言っています。このたび、めでたくtaishihoさんもご覧になったということですので、封印していた感想を書きたいと思います。以下の文章は、観賞後すぐに書いたものをベースに加筆修正したものです。

 「ドリームガールズ」観てきました。あちこちでいい評判を聞く映画、ビヨンセ主演ということでも話題になっています。元になったミュージカル版についてはまったく未知、「シュープリームスモータウンがモデルらしい」という事以外の先入観なしでの鑑賞になりましたが、さて、、、。
 ストーリーはここで紹介はしませんが、僕が感じたのは「これはシュープリームスの評伝的映画ではない」ということでした。確かに時代背景は1960年代、舞台はデトロイトから始まりますし、明らかにモデルはシュープリームスですが、まったく固有名詞に還元されてしまうような意味での「モデル」ではなかったです。むしろ、いつの時代にも通用する「ショービズ界のほろ苦いサクセスストーリー」にリアリティを持たせるためにシュープリームスを題材にとったという方がしっくり来ますね。
 その証拠と言ってはなんですが、音楽は、既存のものや「そっくりアレンジ」を使用せず、オリジナルなものを使用しています。僕はその点ちょっとびっくりでした。時代背景を表現したり物語にリアリティを持たせるために、部分的にせよ当時のヒット曲などが登場すると思ったからです。ニュースフィルムなどでそのへんはわかるようになっていましたが、それほどくどくなく、あくまで「映画を楽しむための手助け」という扱いでした。
 僕はそのあたりの「割り切り」がこの映画にはいい作用をしていると思います。それは、黒人社会状況の描き方にも現れていました。「黒人ラジオ局が電波が弱い」といって雪の降る道で車をターンするところや、自分たちの曲を「盗んだ」白人に対して憤慨するところ、マーティン・ルーサー・キング牧師のレコード、「白人に受けるためにリードを交代する」場面、デトロイト暴動の様子などが映画に登場しますが、決して必要以上に踏み込んで描いてはいません。このあたり、映画にリアリティを持たせ、主人公たちの行動や背景を観客にわからせるという目的に合致する限度でやっているという感じです。ここをあまり深く描いて、マジョリティであり、この映画の想定観客である白人層を徒に刺激するのも得策ではないと判断したのかもしれません。結果的にこの映画は、非常にいい形でリアリティとファンタジーが入り交じる娯楽作品になっていました。
 エフィを演じるジェニファー・ハドソンの歌唱力はもう十分以上のもので、彼女がメインで唄うシーンでは、終わったあと思わず劇場で拍手しそうになってしまいました。あのシーン(観た方はわかりますよね?)での絶唱は、本当に涙が出るほど感動しました。ビヨンセ演じるディーナとの対比で、ちょっと濃いめのアフリカ系アメリカ人を演じている彼女は非常に魅力的でした。ただ映画の演出上(曲の感じから)、歌声も歌い方もクラシックなR&Bといった趣きで、映画を観ているときは気になりませんでしたが、サントラ(早速買いました、デラックスエディションです)で聴覚のみで鑑賞していると、少し「濃さ」が気になる瞬間もあったことも事実です。これは彼女の限界というよりも作品の性質上のことだと思いますので、僕たちにはより現代的な彼女の歌声をこれから聴けるという楽しみが残っていることになります。
 対してビヨンセは逆に、ソロシンガーとして十分自己主張できる実力とキャラクターを持ちながら、特に前半はそれをまったく抑えた感じで、そちらはジェニファーとはまったく違う意味で驚きました。映画のラスト、ドリ−ムスのテーマをエフィのリードで唄うところでは、見事なバックコーラスで、「へえ、バックにまわってもちゃんとできるんだ」と妙な感心をしてしまいました。エディ・マーフィジェイミー・フォックスもそうですが、みんな芸の引き出しが多いなあ、刮目しました。
 シュープリームズが主人公の現実では不幸な最期をとげたフローレンス・バラードにあたるエフィですが、映画のラストは感動的で、ハッピーエンドでした。このラストについて、シュープリームスの伝記的映画を期待した方には「弱い」という感想を持った方もいるようですが(ネットで検索していて、そんな感想にも当たりました)、僕はこれでいいと思います。悲しい現実をそのまま描くのではなく、あくまで後味のいい娯楽作品にするためにはこれでいいと思いますし、なにより、このように、たとえフィクションの中であれ和解や再会があった方が、フローに対する愛情や敬意を表すにはいい方法だと思います。
 僕が一番素晴らしいと思ったのは、ちょっと上に書いた事とダブりますが、この映画が「モデルや音楽を知らないと楽しめない」「出演者のファンでなくては楽しめない」ものではなく、まったく前知識などがなくても感情移入できるような作品になっていたことです。これは(部分的にであれ)モデルがいる作品では難しいことで、ちゃんと成功したというのは製作陣・出演者の勝利だと思います。本当に楽しめる、いい作品でした。

 追記:僕の両親も観に行って、帰ってきたときに感想を聞いたところ、やっぱりよかったとのことでした。そのときに言っていたのが「あの、途中でクビになっちゃう子、アカデミーでは助演女優賞だったけれど、あれは主演だろう。いいところはみんな彼女の歌だった」というものでした。うん、僕もそう思うよ。

ドリームガールズ:デラックス・エディション(DVD付)

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