リスペクトと構成美の幸福な出会い 「狂気2005」

 今日は暑かったですね、南関東の話ですが。僕の今の職場は最寄り駅から10分ほど歩くので、今日のような陽気だと汗かいてしまいます。あ、申し遅れましたが、異動になったんです。今回の異動はメインの理由が子育て(だから通勤時間に配慮してもらった)というもので、前の所属には2年しかいなかったという、僕の経歴としては一番短期間での異動でした。おかげさまで通勤時間は短縮され、保育園への送りもスムーズになりました。仕事という点では正直もうちょっと(前の所属のものを)やりたかったなあ、達成前のプロジェクトもあったし、という気分ですが、それを言い出したらキリがないかな?まあ、気持ちを切り替えてがんばります。
 というわけで唐突に本題に。ちょっと変わったアルバムを発見したのでご報告します。ドリーム・シアターの「Official Bootleg Dark Side Of The Moon」という作品。ドリーム・シアターはご存知の方が多いですよね、アメリカの現役バンドです。プログレハードというか、プログレメタルというか、ちょっと正確になんと呼ばれているかは知らないんですが、聴けば誰でもわかる「超絶テクニック」「シアトリカルな構成の楽曲」という特性を持った音楽を奏でるバンドです。僕はまだ数枚しか聴いた事がないんですが、どれを聴いても「すごい!」という感想が最初に飛び出してくるようなバンドです。同じような特性を持っているバンドにカナダのラッシュというバンドがいますが、ラッシュよりもずっとヘビーで作り込んだ印象を与える音楽で、その意味ではメタル好きにアピールするんじゃないかと思っています。
 ただ、僕はこのバンド、「好き」と言えないんです。嫌いだとかダメということではないんですが、どうも聴いていて、もうひとつ「潤い」「楽しさ」が足りないなあ、と思ってしまうんです。本人たちやファンの方達にとっては大きなお世話かも知れませんが、どうしても「重厚さ」「端正さ」が印象として残ってしまい、「作品そのものの色気・引き込まれてしまうような魅力」は感じにくいんです。僕の感性が合わないだけかもしれないし、音楽自体は決していいかげんなものではないとわかるんですが。そんなわけで、気がついたらチェックする、という程度のバンドだったんです。
 ところが、その最新(だよね?)アルバムがここにある。なぜかというと、この作品がなんと!あのピンク・フロイドの傑作「狂気」を、そのまんまライヴで再現したというものだったからです。実をいうとレコ屋でジャケットを見かけたときに、あのプリズムジャケットをパロッたようなデザインに惹かれて手に取り、演奏しているのがDTだと知った瞬間にレジに向かっていました。DTは以前、ミニライヴアルバムでフロイドの「In The Flesh?」をカバーしていて、それがなかなかの出来、同時に収録されたパープルの「Perfect Strangers」やゼップの「Achilles Last Stand」などもよかったので、ちょっと期待して買ってみたんです。
 で、今日までに数回聴いてみたんですが、これがなんというか、本当に完全カバーでした。実は上記のライヴでも、カバー曲はあんまり独自アレンジせず、原曲どおりに演奏していた彼らですが、この「狂気」DT版は、途中のSEまで含めて完全再現でした。一部の効果音は自分たちで作っているようですが、例えば冒頭の「心音ドクドク」や「Money」の「コインがチャラチャラ」など、フロイドのものをそのまんま使用したところも多々ある感じ。そして演奏自体はというと、「もろフロイド」でした。これは「カバー」ではなく「コピー」では?ちょっと前のスミザリーンズの「Meet The Beatles」コピーに匹敵するような「そのまんま」でした。ニックのドラムまできちんと再現しているのには驚きというよりも感動してしまいました。ギターソロなど一部でアドリブなどが入る時もありますが、全体としてはまさに「再現」という感じです。
 で、僕はとても気に入ってしまいました。ちょっと斜に構えた言い方になってしまいますが、バンドのオリジナルでは(僕の主観としては)欠けてしまう「潤い」や「情緒」が、こうした情緒的なテイストを強く持った作品を演奏する事でちょうどいい具合にブレンドされ、結果的に音楽として心地よいものに着地しているという感じです。ちなみにこの作品は2枚組で、1枚目が「狂気」完全再現(2005年、ハマースミス・オデオン録音だそうです)、2枚目はボーナス・ディスクで、こちらもフロイドの「Echoes」「Hey You」「Sheep」「Run Like Hell」などを演奏しています(こちらは世界中いろんなところでのライヴテイク)。こちらは若干DTの独自色が出ている感じ。「Sheep」が出色の出来でした。
 ここしばらく、スミザリーンズ、パティ・スミスなど、他人の曲を演奏するアーチストの作品を続けて聴きましたが、この「狂気」DT版はどちらかというとスミザリーンズに近いところにあるように思えます。そこにあるのは「批評」ではなく「愛情」や「尊敬」でしょうね。こういうものは一歩間違えるとファンしか楽しめない代物になってしまうんですが、この作品はそういう心理が、バンドの持ち味といい具合に反応してくれて、聴くに値するものになっていると思います。
 追記:調べてみたらこのバンド「Official Bootleg」と銘打って、何作かこういう「完全再現」盤を出しているらしいです。知らなかった!なんでも日本公演では、ディープ・パープルの「ライヴ・イン・ジャパン」完全再現を演ったとか!!聴きたい!ぜひリリースしてください!