すべてを肯定するエネルギー

 スライ&ザ・ファミリー・ストーンが紙ジャケ再発されましたね。僕のような中年ロックファンはともかく、最近のファンにアピールするのかなあと思っていたら、なんだかどこに行っても大々的に入荷しているようでうれしくなってしまいました。正直言って最近の本人はその消息すらよくわからないんですが、音楽は今も色あせない、どころかさらに輝きを増しているようです。もしかしたらリアルタイムの全盛期よりもその業績はわかりやすくなっているのかもしれませんね。全部(8枚)同時に購入する財力はないので(笑)、とりあえず現行CDでは持っていなかった「Dance To The Music(スライと踊ろう)」と「Life」。「Life」はあの小沢健二が自身の同名アルバムでロゴを引用したことが有名ですね、実は未入手でした。あの大傑作「Stand」の前作と前々作にあたる2枚、どんな感じなのかな、と思って聴いてみたら、こちらも素晴らしい作品でした。
 「Stand」(とその次の「There’s A Riot Goin’ On」)が、粘り着くようなファンクビートで押すのに対して、今回買った2枚は、もっとずっとロック寄りでした。もちろんファンキーではあるんですが、音楽の要素はもっと複雑で、サイケであったりジャズ的であったり、もちろんロック的でもある(クラシックのようなオルガンまで聴けます)。女声ボーカルが前面にでてくる曲もあり、意匠は様々です。こういう作品は、1枚通して聴くと「まとまりはないけど勢いはある」ようなものが多いんですが、スライの場合は全体を貫くスライの美意識のために、ちゃんとアルバムを単位として評価できます。それにしてもすごい勢いです。
 当時のファミリー・ストーンは、人種性別混合グループで、それだけでも当時画期的だったと言われていますが、音楽はその何倍も画期的です。僕が何よりも評価するのは、この素晴らしく躍動的な音楽が、肯定的な意思によって形づくられているところです。「Dance」の収録曲「Are You Ready」は「白人を嫌うな、黒人を嫌うな、噛み付かれたら噛み付かれた事だけ憎め、心を曲げるな」と唄っています。曲は実にどっしりとしたビートで武装したものですが、その精神は本当にストレートです。
 ファンの方はもうご存知のとおり、「Stand」以後のスライは徐々に精神のバランスを崩してしまい、音楽もだんだん息苦しくなっていきます。僕は今回上記の2枚を買う前は、「暴動」は大好きなアルバムだったんですが、少し気持ちが変わりそうです。「暴動」を嫌いになったんではなく、その前にも素晴らしい音楽があったということを前提に「暴動」を聴き返す必要があるのでは、と思っているんです。それにしてもものすごい音楽を作っていたんだな、あのころのスライは。当時の写真などを観てもバッチリ決まっているし、あのウッドストックは最高だし。なんだか結局、全部買ってしまいそうです(笑)。
 今これを書いていて、ふと別のことにも思い至りました。これについては近いうちに書こうと思います。というわけで、この稿はここまで。それにしても聴いていると盛り上がるなあスライ。こんな時間にこれじゃあまずいんだけど(笑)。

ダンス・トゥ・ザ・ミュージック(紙ジャケット仕様)

ダンス・トゥ・ザ・ミュージック(紙ジャケット仕様)