追悼 羽田健太郎

 某SNSには通信社や新聞社などのネットニュースが随時掲載され、それについての日記を書くと、ニュースの下に一覧が表示されるようになっています。話題のニュースや重大事件などはたくさんの人がそれについて日記を書くので、日記一覧の件数も100を越えたりします。今日の午後流れたこの知らせは、短時間に100を越え、午後10時前の段階で600に及ぼうとしています。羽田健太郎さん死去。
 その日記の中身を総覧してみると、やはりというか「渡鬼」「マクロス」で知ったという人が多いんですね。実は僕は、この人の曲、演奏というと、一連の「宇宙戦艦ヤマト」関連のものに一番愛着があります。ヤマトといえば言わずと知れた宮川泰先生ですが、実はハネケンさんは、「さらば宇宙戦艦ヤマト」からピアニストとして参加していて、シリーズ後期には作・編曲でも活躍されていました。 
 「ヤマト」の音楽は、今ではもう望むべくもない「フルオーケストラで全編生演奏」という贅沢極まりないものですが、そのシンフォニックでクラシック的な部分で、実はハネケンさんは大活躍だったんです。僕は宮川先生の真骨頂はフルオーケストラであってもどことなく歌謡ポップス的な洒脱さが特徴だと思っていて、「ヤマト」でももろクラシック調にならない、いい意味で「俗っぽい」テイストが持ち味だと信じていますが、シリーズ後期、音楽のスケールが巨大になってきたときに、その重厚なスケールを支えたのが、ハネケンさんのクラシック的素養だったと思っています。「完結編」での、ピアノコンチェルトかと思うほどのオーケストラアレンジと縦横無尽に弾かれるピアノは、ハネケンさんなしには実現しなかったでしょう。僕は1984年にライヴ録音された、「交響曲 宇宙戦艦ヤマト」のトラックダウンバージョンというCDを持っていますが、ここで展開される「宮川泰作曲・羽田健太郎編曲とピアノ」による演奏は、2人の個性が見事に出たものであると同時に、ハネケンさんの編曲能力の高さ、とりわけ後期ロマン派的資質がよくでた名演です。
 ハネケンさんにはまた、「題名のない音楽会21」司会という顔もありました。僕は毎週あの番組を楽しみにしていました。企画ははずすこともありましたが、それでもハネケンさんの明るいキャラクターは、以前司会だった黛敏郎氏の高踏的な雰囲気とは正反対のもので、とても楽しめるものでした。なによりも音楽を愛している・楽しんでいるという感じがストレートに出ていて、それが「クラシック番組」であることの堅苦しさから逃れられた理由ではないかと思います。春にオンエアされた映画音楽特集で、ゲストのミシェル・ルグランとの競演時に見せた表情や言葉は、「お仕事」的なところがまったくなく、テレビのこちら側から観ている僕までうれしくなってしまうほどでした。そう、音楽を聴く・演奏することは究極的には「喜び」なんだ、ということを、理論ではなく人柄で伝えてくれた人なんだなあと思います。
 ハネケンさんの「ラプソディ・イン・ブルー」は日本人最高の演奏だと、以前知り合いに言われたことがあります。本当に残念なことに、僕はその演奏に接する機会のないまま今日を迎えてしまいました。聴きたかったなあ。きっと素晴らしいものだったんでしょうね。
 今聴いているのは、上に書いた「交響曲 宇宙戦艦ヤマト」の「3楽章 祈り」。親しみやすく、元のメロディ(宮川泰作曲)を大切にしながら、華麗に、そして格調高く流れる切ない音楽。今日はこれを聴きながら、ご冥福をお祈りしたいと思います。

追記:今これを書いていたら、テレビのニュースで訃報が流れたんですが、そこで「ラプソディ・イン・ブルー」が少しだけですが聴けました。少しだけ、願いが叶いました。