レコードコレクターズの25周年記念企画に思う(後編)

 昨日からの続き、「レコード・コレクターズ」7月号の「80年代ロック・アルバム・ベスト100」についてです。
 僕がこのランキングを見て最初に思ったのは、「意外にビッグヒットが少ないな」ということでした。ヒューイ・ルイスもプリンスも「スリラー」も入っているし、H&O、マドンナあたりもいますが、あくまでアーチストとしての登場というラインはハズしていません。このへんはひとつの見識として僕も尊重したいと思います。ただ、たとえばH&Oなどは80年代の中盤、とんでもなくチャートで大暴れしていた存在で、かつその音楽性も(全盛期より少し遅れて、という印象ですが)高く評価されたものですが、そういう部分はこのランキングからは窺えません。「ミスター80年代」フィル・コリンズもなし。この辺の考え方には簡単にスノッブに転化してしまうので、僕としてはちょっとうーん、というところですね。以上雑感でした。
 僕が一番感じたのは「80年代はロックにとって素晴らしい時代だった」ということです。皮肉じゃないですよ。僕くらい(40代の真ん中くらい)から上世代のロックファンにとって、1980年代というのは「ロック冬の時代」というのが一般的考え方でした。かたやニューウェイブやワールド・ミュージックの隆盛があり、かたやMTVや産業ロックがあり、しかも70年代の終わりにはパンク・ムーブメントもあり、70年代までのロックに対する考え方や好みではわかりにくい流れやアーチストが多く、それまでのような「誰もが思い浮かべるビッグネームや名盤」が相対的に少ないという思いがありました。僕自身、80年代は高校〜新米社会人くらいの時期になるんですが、同時代のアーチストと同じくらい、それ以前のものも聴いていた時期でもあり、どうも印象が散らばってしまっているんです。なのでよけいにそんな風に思えていたんですね。
 ところが、こうして100枚並んでいるのを見ると、個人的な思い入れはさておき、どれもやっぱり名盤傑作ばかりで、ちゃんと優れた才能や作品は世に出ていたんだなと実感したんです。1位になった「Remain In Light」は、発表当時その黒人音楽(というか、ワールド・ミュージック的要素)の導入について賛否両論あったんですが、年月が流れ、ヘッズ(デビッド・バーン)のその後の活動を念頭に考えると、ちゃんと展望や希望を持った活動だったことがわかります。スミスなんていう孤高の存在は、80年代の達成の一つでしょう。概して「ロックファンみんなが持っている」という意味では名盤が少ないですが、個々の作品としていあえば、むしろ質は向上しているといって良いのかもしれません。パンク以後のロックシーンは、才能あるアーチストほど「ロックに対する懐疑」というところから出発せざるを得なかったところが、その時代にいくぶんネガティブな色を添えてしまったのかも知れませんね。でも今の時点から考えると、そうした歩みがあったればこそ、90年代以後も(そして今日までも)ロックは生き延びたんだとも言えると思います。
 そしてもうひとつ、特筆すべきはアートワークの質の高さ。これはちょっと驚きました。この時代は後半からCD時代になってしまって、あんまりジャケットの質が話題になることが少なくなっていったんですが、そのせいでやっぱり色眼鏡で見ていたんですね。どのアルバムもとても美しく、それぞれのアーチストらしい意匠になっています。またこの時期はちょうどシンセサイザーがデジタル化されて、エレクトリック・ポップが勃興してくる時期でもあり、このランキングも、眺めているとそんな音の流行を思い出せます。ああ、そういえばZTTとかいたなあ。懐かしいなあ。でも「サンプリング」という手法もすっかり定着しましたからね。そう考えると、後のヒップホップなどに及ぼした影響も大きいんだと思います。
 3号続いたこの特集、僕自身は70年代に一番思い入れがあったし、正直80年代はついでに読んだようなものだったんですが、どっこい、一番勉強になり、そして自分の中の偏見や思い込みを自覚し、認識を新たにするいい機会になりました。

 ちなみに、僕だったら1位はプリンスの「Around The World In A Day」(今回のランクでは36位)ですね。それにオムニバスですが「Pillows & Prayers」、そしてキング・クリムゾンの「Dicsipline」を入れます。
 もうひとつちなみに、僕は今回の特集のうち、60年代は64枚、70年代は81枚、80年代は51枚の合計196枚所有していました(聴いたことがあるものなら、さらに増えます)。多いんだか少ないんだか(苦笑)。
 最後に一言、予言を。数年後に「90年代ベスト100」が掲載されたとき、1位はニルヴァーナになるであろう(笑)。はずれたらどうしよう(笑)?

Around the World in a Day

Around the World in a Day