ケニーに花束を

 さて、台風に備えて(?)フーのDVDとCDを買った僕ですが、両方とも見聞きいたしました。DVDの方は「引き」の映像が多かったので、ピートとロジャーを同じ画面で観られるなど、なかなかいいものでした(画質はよくないですが)。「Boris The Spider」のときにジョンが珍しくピック弾きしていたのが確認できました。価格を考えたら、元は取った(僕なりに楽しめた)ものでした。
 そしてもうひとつ「Live From Tronto」。これはタイトルどおりトロントでのライヴですが、最近のものではありません。1982年のいわゆる「最初の解散ツアー」での録音です。このときはアメリカとカナダでテレビの有料放送としてライヴの模様が放送されており、後にビデオ化されたその映像と同じ音源のようですから、収録日は1982年12月17日だと思われます。このツアーは、「Who’s Last」という作品にもなりましたのでご存知の方も多いと思いますが、ドラムがキースではなくケニー・ジョーンズだということと、全盛期に比べてバンド全体のエネルギーが控えめということで、低い評価に甘んじています。
 今回の2枚組CD、「Last」に比べるとちょっと音質が劣ります。全体に中低域に偏った、ちょっとこもった音。楽器の定位もベースとギターがわりとはっきり左右に分かれていて、そのへんも「いかにも映像がソース」という感じです。そのかわりといってはなんですが、ロジャーのボーカルはこちらの方がよく聴こえます(もともと「Last」の方が不当に低いレベルだったので、普通になったというべきかもしれないですね)。
 このアルバムと「Last」との最大の違いは収録曲で、「Tronto」の方が6曲多い22曲、そして「Last」では収録されなかった「ケニー時代の曲」が4曲も収録されていることです。実はこのときの模様を収めたビデオは観たことがあって、そのときも感じたんですが、この「ケニー時代の曲」がとても出来がいいんです。一般にあまり評価されない時期の曲ですが、どれも力がこもった演奏で、ケニーのドラムも素晴らしい出来です。やっぱり自分が在籍している時期のオリジナルの方が生彩を放っていますね。
 そういう曲も入った状態で通して聴くと、実はケニーのドラムは言われているよりもずっとグループに貢献しているんだと思えてきます。キースと比べられてしまうから「タイムキーパー」(ピートのインタビューでの表現)なんて言われてしまいますが、実際のケニーはどっしりとしたビートが叩けるドラマーです。「Last」でも前述のビデオ作品でもなんだかポコポコ軽い音にされていますが、今回の「Tronto」で聴くと、いくぶん重い感じがでていて、決して違和感のみが残る演奏ではありません。「Eminence Front」や「Boris The Spider」ではしっかりリズムをキープしながら重心の低い演奏ですし、反対に「Long Live Rock」、「Squeeze Box」ではストレートなロックンロールを実に楽しそうに奏でています。「Sister Disco」や「Young Man Blues」では緩急の差の激しいアレンジを見事に使い分け、本当にケニーが一流のプレイヤーだということがよくわかります。
 今例に挙げた曲のほとんどは「Last」には未収録ですが、この未収録作品が、実は全体の演奏もよく、もしかして「Last」にこういった曲が収録されていたら、このときの「さよならツアー」はもっと(いい意味で)伝説になったと思います。なによりも、ケニーの評価は間違いなく上がったと思います。
 DVDもそうですがこの「Tronto」も、どうもグループが能動的に発表した作品というよりは、なにかも契約で出てきた企画もの、というか副次的な作品のような感じです(輸入盤とはいえ、2枚組で1500円弱です)。でもファンにとっては、なにかしら新しい発見があって、うれしいリリースでした。
 ちなみにジャケットは「Tronto」の方が「Last」の数倍かっこいいです(笑)。

Face Dances

Face Dances