宮下誠著作の2冊の本を読む(前編)

 昨年の秋に、「20世紀音楽 〜クラシック音楽の運命〜」(宮下誠著 光文社新書)という本を買った事をブログに書きました(こちらです)。そのときは、事実上「買った」という以上の内容は書けず(読了前でしたから)、すぐにいつものとおりの日記になってしまったんですが、その後、なんと著者ご本人からご連絡をいただきました。当日の日記コメントにあるとおり、「20世紀音楽」の続編的著作にこの日の日記を転載したいとの内容でした。僕の日記は本当に内容のないものだったので、ちょっと躊躇したんですが、「ブログでの批評に答える」という意図に感じるところありまして、転載についてはご希望のとおりとお答えしました。
 その後、何回かのメールでのやりとりの後、そのご本が出版され、僕のところにも1冊送られてきました。タイトルは「『クラシック』の終焉? 未完の20世紀音楽」(法律文化社)です。
 さて、僕は昨秋の日記で、宮下先生のご本について、事実上なにも語っていないので、ここでまとめて感想を書いてみたいと思います。
 まず「20世紀音楽」について。この著書で著者が繰り返し述べておられるのは「現代音楽はおもしろい」ということ。これは著書ご本人の結論であると同時に「現代音楽はわからない」という世評に対するアンチテーゼにもなっていて、とかく敬遠されがちな現代音楽について「先入見をなるべく持たずに」聴くことを強く奨められたご本です。具体的な内容はというと、20世紀音楽(現代音楽という俗称とは、指している実像が微妙に違います)の成り立ちや時代の移り変わりについてさらりと触れたあと、作曲家ごとにその作品と、作曲家本人も含めた「時代や状況との関わり」を述べていくというものです。
 でですね、これが本1冊ずっと続くんです。本当に1冊まるごと。作曲家も作品も夥しい数が登場しますが、基本的に書き方は同じ。これは続編「『クラシック』の終焉?」でも基本的に踏襲されています。
 僕はこの(書かれている内容ではなく)形式に一番引っかかりました。僕のような「20世紀音楽に興味があるけれども入り込みにくい」と思っている人間にとって、一番の敷居は、実は音楽そのものというよりは、作品成立の「文脈」が不明であるということです。なので、そのあたりをうまく説明してもらえるようなものを期待したのです。実際には、そういった背景や歴史はそれなりに書かれてはいるのですが、それがまとまった形ではなく、作曲家や作品についての文章の中にとけ込んでしまっているので、どうしても「地図」としては機能しなかったのです。
 それから、これもちょっと批判的な物言いになってしまいますが、著者が「どのような立場に立って、音楽を語っているのかわかりにくい」というところも引っかかりました。著者は「20世紀音楽は面白い」と明言されていますが、著者自身の、どのような経験や好みの変遷(あるいは変遷しなかったか)の結果今のような境地に至ったかが不明確なため、総花的な内容のどのあたりに著者の「リスナーとしての好み」があるかよくわかりませんでした。「まずは聴いてもらいたい」という思いからこのようなことになったことはよく理解できますが、実は読者にとって、未知のものを知るときには、語っている人間がどのような人であり、どのようなものが好きか(嫌いか)が重要なファクターになるのです(たとえ主観丸出しであっても)。その意味ではとても「わかりにくい」本ではありました。
 著者の独特の文章は、僕にはそれなりに心地よく読めるものでしたし(楽に読めるという意味ではないです念のため。ほめているつもりなのでご容赦を)、その「わかりにくい」部分を乗り越えてしまえば(あるいは、僕のように、そこコミで楽しんだ人間にとっては)、とても参考になった本でした。僕は(2冊目のご本で知ることになる)他のブロガーのみなさんのように、このジャンルの音楽に精通していないので、誰それが、どの曲が採り上げられていないという不満はありませんでした。実際のところ、この本を片手に行きましたよ、レコ屋。タワーレコードによく行きました。ちょっと即物的なことで失礼かもしれませんが、棚の前であれこれ迷う時のお供としてはとても便利でした。この本を参考に何枚か買いました。最近はタワーが独自に過去の作品を再発していて、その中に現代曲もあるので、小澤の「火刑台上のジャンヌ・ダルク」なども買いました。さっきまで部屋ではシュトックハウゼンの「グルッペン」(アバド指揮とのことですが、3組のオケが同時に鳴っています)が(当然低いボリュームで)流れていました。今聴いているのはアイヴスの「答えのない質問」。最後の選曲、「作ってる」って思ったでしょ(笑)!?はい、ちょっとだけ(笑)。
 いただいた「『クラシックの終焉?』」についてですが、ちょっと長くなってしまったので、次に続かせてもらいます。
 追記:水痘にかかったドレミですが、おかげさまで峠は越えたようです。発疹は全身に及んでいますが、ピークは過ぎたようですね。熱は相変わらずの状態ですがなにしろ元気元気。大人の方がくたびれるほどで、食欲も全然落ちません。完治はしていませんが、快方に向かっているというところです。

20世紀音楽 クラシックの運命 (光文社新書)

20世紀音楽 クラシックの運命 (光文社新書)