「毎日かあさん 出戻り編」

 西原理恵子さん(別に個人的な知り合いではないですが、「さん」付けです)が結婚したという事を知ったのは、当時マンガが連載されていた「ロッキング・オン」誌でした。そのころ編集長だった増井修氏が「サイバラが結婚した、しかも相手は国際的に活躍する戦場カメラマン。」と書いていたのを読んだのが最初です。僕はそのとき、どんなすごい人がサイバラを射止めたんだろうと思いました。で、それから間もなくマンガに登場したのが、あの「鴨ちゃん」でした。
 それからのサイバラマンガは、フィクションを飛び越え、それこそ世界中を歩き回る、ある意味で「マンガ史上初」といっていいフィールドワーク性というか、本当の意味での「野趣」を持ち出しますが、それは間違いなく鴨ちゃんとの生活によってもたらされたものでした。鴨ちゃんの登場しない、純フィクションでさえ、そこには「家族」や「人と人が繋がり合う不思議」が強く感じられました。西原ファンの方はよくご存知でしょうが、サイバラ鴨ちゃんの生活は決して平坦なものではなく、というかむしろ大変な毎日(鴨ちゃんアルコール依存症が主な原因)で、何年か前には正式に離婚もしています。このころの様子はいくつかのマンガ作品でわかりますが、描いてある以上に凄惨であったろうと思われると同時に、描かれている以上に西原さんが支えになっていたんだと思います。結局鴨ちゃんはアルコール依存を克服し、家族の元に帰還しました。僕は毎日新聞を購読しているんですが、そこに連載されている「毎日かあさん」では、最近は「元夫」という肩書きではありますが、家に帰り、2人の子どもたちも交えた賑やかで幸せな日々(以前のようなぎすぎすした感じがない、穏やかな通奏音が流れる)が描かれていました。
 今日買った新刊「毎日かあさん 出戻り編」は、いつもの「バカ息子、ちゃっかり娘」との日々に混じって、鴨ちゃんが登場する回が多く掲載されています。ちょうどこの連載時期に、鴨ちゃんは家に帰ってきたんでしょう。相変わらずの日々のようですが、そこには確かに、以前とは違う風が吹いています。読んでいてそれがわかります。
 さて、この文章はどう続けていきましょうか?鴨ちゃんこと鴨志田穣氏は、今年3月にガンのためこの世を去りました。僕は新聞で訃報を知り、そのことはブログにも、SNSにも書きました。僕は訃報を知るまで、鴨ちゃんの小説に出てきた「ガンにかかった」というのはフィクションだとのんきに思っていました。だってマンガではあんなに元気に、奥さん(元奥さんかな?)や子どもたちと一緒に騒いでいたんですから。僕はてっきり、これでみんな幸せになったんだなあと思っていましたから。
 「出戻り編」には、2人のなれ初めやアルコール依存症との戦いのこと、その戦いに勝って家に帰り、家族みんなで過ごした「とてもしあわせでした」という半年間、そして最後の日々のことが、描き下ろしで収録されています。もちろん僕は買ったときにはもうその「結末」は知っていました。知ってはいましたが、実際に読むと、本当に胸に迫ります。ここでネタばらしをやるほど野暮ではないですが、家族が、そして子どもたちがお互いを支え合い、お互いを大切に思う、その思いが言葉のひとつひとつ、絵のひとつひとつから伝わってきます。
 「毎日かあさん」はこれが4冊目の単行本ですが、初めて表紙に鴨ちゃんも一緒に描かれています。帯には大きく「4人家族になりました。」と書かれています。この絵とこの言葉が、最後の幸せな日々を表しているんだと、僕は思います。
 84ページと85ページは見開きで、2人の子どもたちが書かれています。サイバラファンである僕は、この子たちが生まれた時からをマンガで読んでいて知っているんですが、いつの間にか2人とも、すっかり大きく、しっかりしてきました。すごいなあ、子どもって、親が育てるだけじゃなくて、親を育ててもくれるんだよね。ドレミが生まれてから僕は、そういうことが心からわかるようになりました。
 よかったね鴨ちゃん、みんなと表紙に描かれて。家族4人全員だよ、もう誰も、この絵から鴨ちゃんを連れ去ることはできないよ。

毎日かあさん4 出戻り編

毎日かあさん4 出戻り編