今日はなんの日だっけ?

 タワーレコードってご存知ですよね。説明不要ですよね。本国アメリカでは倒産(だっけ?)したとのことでしたが、ここ日本では(資本関係を別にしていた関係で)今でもゲンキいっぱい営業しています。5月に異動するまでは、通勤の乗換駅に店舗があるのと、夜遅くまで営業しているので、ちょくちょく寄っていました。ロックの国内盤はどのこででも買えますし、ちょっと気のきいた輸入盤も(アマゾンまで含めると)そんなに「タワーで買う」必然性はないんですが、僕の楽しみはロックではなく、ワールド・ミュージックとクラシックでした。ワールド・ミュージックのことは今日は置いといて、クラシックのことを書こうと思います。
 僕が寄っていた店舗でのクラシックの扱いは、必ずしもすごく広い面積を使っているという感じではありませんし、作曲家のファミリーネームのアルファベット順並びというのも便利でもあり不便でもあるという感じ(ショパンチャイコフスキーで迷うこともあるでしょう。僕はヒナステラで迷いました)ですが、ひとつものすごく「タワーのクラシック売場を見なきゃ!」と思う理由がありました。
 それは、「タワー独自企画」CDです。僕は昨年くらいから知ったのでどのくらいの歴史があるのか知らないのですが、僕が知ってからだけでも「小澤が振ったオネゲル『火刑台上のジャンヌ・ダルク』」「イングリッドヘブラーの『フランス組曲』」(グールドと聴き比べると本当に驚きます。僕はヘブラーに1票)「朝比奈と大阪フィルによる『千人の交響曲』」「アニア・タウアーによるチェロ作品集」(全然知らない人でしたが、素晴らしい演奏でした)、「なかにし礼が訳した『第九』(指揮は堤俊作、演奏は東京シティフィル)」「東京オペラシティ10周年記念演奏会での武満作品」など、入手困難だったり廃盤だったりした名盤をどんどん再発しています。いろんなレコード会社と共同企画しているようで、原盤の出所も多彩です。しかもそのほとんどが1000円!税込みだったり税抜きだったり、2枚組3枚組で価格が上がったりと若干違いはありますが、基本的にそういう価格。もう信じられないという感じです。特に現代音楽のものなど、この価格で入手できるのは本当にうれしいことで、衝動買いに近い感じで行くたびに1枚ずつ購入していました(しつこいですが、財布から出すのは1000円札と50円玉くらいのものです)。こういう企画は、音楽を聴く耳を養い、また自分のリスニングライフの幅を広げるという意味でとても重要で、ぜひぜひこれからも続けていってもらいたいと思っています。
 で、今日紹介するのは、その中の1枚「ヴィルヘルム・ケンプ 多彩な音楽家の肖像」というアルバムです。タイトルが表すとおり、大ピアニストケンプの演奏と語り、珍しい自作の歌曲(歌っているのはフィッシャー・ディースカウ)が収録された、いってみれば企画盤的色彩の強いアルバム。録音は1930年代から70年代まで幅広く、その意味では統一がとれているとは言えませんが、演奏はどれもいいもので、他では聴きにくいものでもあり重宝します。
 さて、なぜ僕が今日これを紹介するのかというと、このアルバムの冒頭に、ある教会の鐘の音が入っているからです。収録されたのは日本。広島世界平和記念聖堂の鐘の音。これは、原爆投下により倒壊したカトリック教会が再建され、その教会のオルガン除幕式でケンプがオルガンを弾いたときに収録されたものなのです。除幕式での演奏も2曲(バッハのコラールBWV.639と727)、そして、その折のケンプの肉声も収録されています。アルバム全体では特に「反戦平和」を前面に出したものではありませんが、波が寄せるように聴こえてくる鐘の音、それに続くオルガンの響きは、言葉で語らずに何事かを僕たちに告げてくれます。先入観なしでも、そこに厳粛なものを感じます。
 今日は広島の原爆記念日です。僕のブログは政治的な話題は取り上げない事にしていますし、今日の日記で声高に「これこれの立場が正しい!」などというつもりはありません。自由に音楽を聴き、自由に言葉が交わせるということがいかに大切か、いうまでもないことでしょう。だから僕が今夜言いたい事は、つまるところ「こんな真摯な音が、税込み1000円で買える平和がいつまでも続きますように!」ということです。