竹内浩三 ジョン・レノン 8月15日
竹内浩三の「戦死やあわれ」(岩波現代文庫)を、やっと読了しました。なにしろ一読しただけですし、それなりの感想しか書けない状態ですが、当初僕が考えていたよりもずっと「軽い」ものでした。軽いというのは内容が空疎だ、軽薄だという意味ではないです。戦争が始まり、不自由な生活が始まり、徴兵され、激しい演習の日々にいながら、彼の書く文章には独特の軽やかさがあり、世の中のもっともらしい動き(いうまでもないですが当時のそれは「戦争」を中心としていました)を額面通り受け取らず、どこか斜めに眺め、結果的に世相の本質を見抜いているように思えます。こう書くと竹内は反戦論者のように思われるかもしれませんが、決してそうではなく、(いくつかの文章や詩にあるように)当時としては平均的な愛国青年であったようです。しかしだからこそ、その目の冷静さと正確さは驚くばかりです。
本は手紙、日記、創作などいろいろなものが収録されていますが、特に巻末に収録された短編小説の不思議な味わいは、他に例がないです。「ソナタ形式による落語」など、稲垣足穂にも匹敵する想像力の飛翔です。「勲章」の、戦争の誉れの勲章を女が口に入れてなめ回す結末は、おかしくもあり艶かしくもあります。創作以外の文章も、一種の「乾いた叙情」風の趣があり、実に独特の魅力があります。
僕はこの本以外の竹内の文章を読んだことがないですし、先日放送されたという彼のドキュメンタリー番組も観ていません。なので僕の理解がどの程度彼の本質に近いものかはわかりませんが、今の僕にとって竹内の作品は、真剣で美しいと同時に、ある種の「軽やかさ、しなやかさ」を持ったものに思えます。
偶然ですが今日、アップルのiTunes Storeでジョン・レノンの楽曲配信が始まったという知らせが届きました。ざっとみたところ、特別貴重な音源などはないようですが、ポールやジョージ(トラベリング・ウィルベリーズ)に続いて、ついにジョンもメジャーな配信に参加したようで、確実に時代は流れているんだなあと思ってしまいました。
今や「愛と平和の使者」として、まるで聖者のように語られるジョンですが、彼の作品や声にも、竹内のように、独特の「軽み」があり、「眉間に皺を寄せて大義名分を語る」ような真面目さの欺瞞を見抜いてしまうような鋭さがあります。願わくばそういう人たちの創った名作が、多くの手に届く日々が永く続きますように。
「哄笑していればいい/いつか、その口の中へ/蝶々がまいこむ」(竹内浩三作。でもまるでジョンの言葉のようでもありますね)
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