shirop的「過小評価されているギタリスト」

 アメリカの「ローリング・ストーン」発のニュースで「史上もっとも過小評価されているギタリスト」25人が発表されていました。一瞬「?」と思ったんですが、これはその前に発表になった「史上最高のギタリスト100人」というランキングの裏モノだったらしいです。なるほど。で、この「過小評価」の第1位に、めでたくプリンスが輝いたんだそう。へえ、コンサートなどではけっこう弾いている姿を見られるし、押し出しも強いと思うんですが、やっぱり他に作詞作曲、歌にキャラクターといろいろ才能を持っていると、相対的に楽器奏者の部分が隠れてしまうのかも知れないですね。
 このランキング、「史上最高」の方はもちろんメジャーで有名な人が目白押しですが(1位はジミ・ヘンドリックス。当然ですね)、「過小評価」の方もすごいです。1位が殿下で、2位がカート・コバーン、3位がニール・ヤング、4位に我らがジョージ、5位がキッスのエースという具合。以下もミック・テイラー(8位)、ロバート・フリップ(14位)、ロビー・ロバートソン(20位)など、実に多彩。当然ですが「史上最高」「過小評価」の両方に名前がある人も多いです。「過小評価」の方は殿下のところで書いたように、いちギタリストというよりも「音楽全体に貢献している」という感じの人が多いですね。自分のソロパートにしか興味のなさそうな人よりも、自分の音楽をきちんとやっていて、結果的に「プレイヤーとしては相応しい評価になっていない」というところでしょうか。
 ところで、僕が常々「この人、ギタリストとしても素晴らしいのに、そういう声を聞かないなあ」と思っている人が3人います。それはブルース・スプリングスティーントッド・ラングレン、そしてマイク・オールドフィールドです。
 ブルースは総合的な評価はとても高いですが、ギターを弾いても本当に素晴らしいです。弾き語りの見事さもさることながら、バンドで演奏したとき、とりわけライヴでのギターは最高です。「Thunder Road」の歌詞に「ギターを語らせる術を学んできた」という一節がありますが、ボスのギターはまさにバンドとともにうたい、ボスの声となって「語って」いるかのようです。早弾き系の演奏ではないですが、ロックファンなら誰でもわかってくれるものだと思っています。
 トッド・ラングレン。この人も「他に才能がありすぎて」ギタリストとしては名前が挙がらないですね。この人はマルチプレイヤーなのでドラムも含めて全部自分で演奏してしまいますから、単独の楽器奏者の印象が薄い、完成してレコードになった作品であんまりギターを表に出さない(エフェクターばりばりで、普通のギターに聞こえなかったりします)からかも知れないです。でもこの人も、実はギターを持たせると怖いものなし(と、僕は思っています)。以前観たコンサートでも、ギターを持ったコンダクターという感じで、実に気持ちよさそうに弾いていました。トッドには「テクノロジー先取り未来派ミュージシャン」というパブリックイメージがありますが、実はもう一つ「ビートルズフィリー・ソウル直伝のポップ職人」という側面があり、そういう音楽にハマッたときのこの人の歌とギターはただ者ではないです。コンサートで観た「love In Actuin」や、アコースティック弾き語りの「Cliche」など、少ない音数ですべてを語ってしまうような魅力にあふれています。最近はなかなかそういう側面にふれられるような作品を作ってくれないトッドさんですが、またぜひ、あのギターを聴きたいです。
 そしてマイク・オールドフィールド。言わずと知れた英国の「お宝」ですが、この人もなんでもできてしまう故に一つの楽器のプレイヤーとしては認識されていないですね。でも実は、この人こそ「もっとも過小評価されているギタリスト」かも知れないとさえ思います。80年代、マイクは音楽のスタイルを大きく変え、ボーカルやバンドをフィーチャーした曲でヒットを飛ばしましたが、そのときに音楽のキャラクターを決定していたのは、マギー・ライリーの澄んだボーカルと、マイクの弾くギターでした。マギーの声と合わせるような透明で伸びがあり、英国的な翳りを感じさせるギターでした。この人の場合は、ギターを「楽器」としてより、自分の音楽を忠実に表現できる身近なツールとして演奏している節があり、だからレコードで聴いていると、いわゆるギター的な音色やフレーズではなく、もっとアレンジされ、音楽全体を包み込むような使い方をしています。そのへんもリスナーの「ギタリスト・アンテナ」に引っかかってこない理由かも知れません。でも、意識して聴くと本当にすごいんですよ。元祖宅録ミュージシャン、長尺プログレ楽家というイメージからは想像しにくいですが、実はギター(エレクトリックの方ですよ)を持った姿は、実にかっこいいんですよマイク。性格はよくないらしいですけどね(笑)。そういえばロバート・ワイアットの復帰コンサート(CD出ています。以前このブログにも書きました。こちらです。)でもギターで参加していたし、本人も自負があるんだと思います。
 僕が挙げた3人も、ローリング・ストーンが選んだ他の「過小評価ギタリスト」と同じく、ギタリストとしてよりも、総合的な音楽家としての魅力が大きい人です。でも、ちょっと視点を変えて聴いてみると、別の魅力が出てくる人ばかりです。機会がありましたら、ぜひ「ギタリストとして」の部分にも注目して聴いてみてください。