ミシェル・ルグラン来日公演(東京国際フォーラム)

 昨日(11月2日)、ミシェル・ルグランのコンサートを観に東京国際フォーラムホールAに行ってきました。時間が取れるかわからず、直前まで迷ったんですが、なんとか行けました。
会場に着いて少し驚いたことに、会場は満員ではありませんでした。僕は1階の26列目に座りましたが、僕よりも後ろにはあまり人がいませんでした。今回はオーケストラ仕様での来日なので、思わず「もったいないなあ、せっかくルグランが大編成で演奏してくれるのに」と思ってしまいました。僕の隣に座っていた初老のカップル(?)も同様のことを話していました(余談ですがこのお二人、やたら音楽に詳しく、その内容から業界人ぽかったです)。
 ほぼ定刻コンサート開始。1曲目は「三銃士」。これはあのリチャード・レスターが監督した映画の音楽。レスターと言えばもちろんあの「A Hard Day’s Night」や「Help!」の監督です。こういう繋がりはちょっとうれしいですね。曲間にはルグラン本人の曲解説もあり(英語でしたが、曲名などを含めて一部フランス語だったので、けっこうわからなかったです)、実にフレンドリーが雰囲気でした。ルグランは指揮をして、ピアノを弾き、歌を歌うという八面六臂の大活躍。オーケストラもいい感じでした、、と言いたいところですが、ここでちょっと書きたいことがあります。音響が悪い!
 常々この会場は「よくない」と思っていましたが、それは主に会場の導線(エスカレーターの少なさやトイレ等の配置の悪さ)などが原因でした。今まで観に行ったコンサートは、PAから出力するものが多かったのであまり強く感じなかったんですが、このコンサートではっきりわかりました。これではだめだ。せっかくのオケの響きが、ピアノの音色が、もう一つでした。曲によっては、ドラムの音がバランスを欠いたような大きな音で僕の席に届くほどで、この点は本当に残念でした。東京公演ではこの会場は僕が行った日だけで、他の日程ではBunkamuraオーチャードホールだったので、そちらで聴きたかったなあ。
 ゲストは小松亮太バンドネオン)と坂井紅太(ベース)と村上”ポンタ”秀一(ドラム)。バンドネオンの音色は本来いくぶん退廃的なものですが、さすがルグランにかかるととてもオシャレなものになっていました。ベースとドラムはオーケストラアレンジの曲でも演奏していましたが、何曲かジャズのピアノトリオ編成で演奏する場面があり、これはよかったです。ルグランというと最初に「おしゃれ」「華麗」というキーワードが来ますが、実はあの人、モダンジャズ的センスもあり、ピアノの腕も確かなので、実に聴き応えがありました。まさしく「最後のジャズの巨人」とでもいうような風格でした。今回はオーケストラ仕様だったので、こういう演奏は聴けないと思っていたので大感激。これは得した気分です。
 ゲストは他にハープのカトリーヌ・ミシェルと、ルグランの実のお姉さんのクリスティンヌ。カトリーヌのハープは驚異的でした。この人が登場し、一音奏でるだけでオーケストラの艶が増すという感じ。音色もフレーズも見事の一言でした。第二部に登場したクリスティンヌは、年齢を全く感じさせない美しい歌声でした。ソロはもちろん弟さんとのデュエットまであり、どれも聴き応え満点。「シェルブールの雨傘」での歌声は感動的でした(期待していた「ロシュフォール・メドレー」は意外にあっさりしていましたが)。
 そしてもちろん、ルグランご本人の演奏も素晴らしかったです。主にピアノを演奏しましたが、あの「メロディもリズムキープもオブリガードも全部同時にやってしまう」あのピアノが生で聴けただけでも幸せです。ものすごい早弾きなのに、テンポのズレやもたつきが全くない!けっこう歌も歌った彼でしたが、ピアノ弾き語りのときもソロ演奏と変わらない急速調でビックリ!ジャンルは全然違いますが、ジミ・ヘンドリックスを思い出してしまいました。もちろん静かな演奏ではじっくりと聴かせてくれます。この人の場合「こうだ」と決めつけることは出来ないですね。音楽に関しては、あらゆることが高い水準で出来てしまうんでしょうね。感動と驚きと感心が全部一緒になったような気持ちで聴き入ってしまいました。
 アンコールが終わり、何度か拍手に促されて挨拶に出てきたルグラン、最後には舞台袖にあるカーテンからちょこっと顔を出して手を振ってくれました。とても可愛らしく、そしてお洒落でした。会場のことや観客動員のこととか、多少の不満はありましたが、でもやっぱり行って良かったです。今年75歳になるというマエストロ・ルグラン、いつまでもお元気でご活躍ください。素晴らしい音楽をありがとうございました。





Live in Brussels / [DVD]

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