武道館が「居間」になった夜

 11月13日、行って参りました、メアリー・J・ブライジファーギー、そしてキャロル・キングのコンサートに。場所は日本武道館。こういう組み合わせは動員にマイナスではないかな?と心配していたんですが、満員でした。
 出演は最初がメアリー、2番目がファーギー、トリがキャロルでした。どうも日によって出演順は違ったようで、キャロルの方が先立った日もみたいです。
 メアリーはさすがに聴かせてくれました。力強いボーカルはまったくスキなし。バックの演奏も(現代的なヒッピホップ・ソウル系でしたが、基本的にはすべて生演奏でした。ドラムがものすごかったです)しっかりしたもので、いいものを聴かせてもらいました。「One」も歌ってくれたし、いうことなしです。
 続くファーギー。こちらはバンド以外にダンサー集団がほぼ出ずっぱりでステージ上を飛び回る派手な内容。バンドのアンサンブルはメアリーの方が上だし、ボーカルも(特にバラードでばれてしまいますが)ちょっと不安定(もちろん上手でしたが、その前にメアリーを聴いた身としては物足りなく思えてしまいます。メアリーと比べるのは酷でしょうが。メアリーは自分の歌声を完璧にコントロールしていましたからね)で、でも堂々としたパフォーマンスは楽しいしよかったです。突然ハートの「Barracuda」を演奏し始めた時にはビックリしましたが、受けてました。これでわかったんですが、ファーギーって、アン・ウィルソンに声が似ていましたね。今回の3人の中で一番「知らない」存在だった彼女でしたし、すべてを気に入ったわけではないですが、全力投球の演奏には「私はハイプじゃない」という気持ちが感じられました。よかったです。
 さて、最後に登場したキャロル。僕は前の2人の出番が終わったあと、客席に空きがたくさんあったりしたらどうしようと、変な心配をしていたんですが、全くの杞憂でした。さっきまでヒップホップ系ディーバに熱狂していた若い子たちもみんなちゃんと席にいて、そしてキャロルが登場したら大喝采を送っていました。本当に、僕のような思いこみってたちが悪いですね。ステージ上には基本的にはグランドピアノがあるだけ。そこにキャロルが座って弾き語りという形でした。
 曲は、、、、すみません、実は正確に覚えていないんです。確か1曲目は「Home Again」だったと記憶しています。そして次に、「聴きたいけれど、無理だろうな」と諦めていた「Welcome To My Living Room」を歌ってくれたんです!あの武道館のステージから僕たち観客に向かって「私の居間にようこそ。至らないことがあっても許してね。もう65歳だから歌いたい歌は山ほどあるのよ」って歌ってくれたんですよ!本当にその瞬間から、武道館の空間がぐっと小さく、そして暖かく感じられました。途中ギターとベースが加わりましたが、演奏は本当にシンプル。でも全然物足りなくありません。だってキャロルがピアノを弾いて、歌を歌っているんですから。冗談じゃないです。本当にとんでもない説得力のある演奏でした。イントロが鳴って、歌が始まるたびに「あっ『It’s Too Late』だ!」「あっ『So Far Away』だ!」と驚き、それからはずっと音楽に浸っているという感じ。だから曲順などが思い出せないんです。どこがよかったとか技術的に優れていたとか、そんなこと関係無しに、奏でられる音楽のすべてが美しく格別だという感じ。僕が大好きな「Will You Love Me Tomorrow」も歌ってくれました。「Smackwater Jack」の時はキャロルも含めてステージ上の3人がギターを持って歌ってくれました。このとき「イーグルスを観に行ったら、ステージのフロントにずらっとギターが並んでる感じなの。でも私たちもそれくらいできるわよ」なんて冗談を言っていました。
 キャロルの音楽では「つづれおり」が代表作であることは間違いないでしょう。今回もたくさん歌ってくれました。でもそれは「昔大ヒットした有名曲を演奏して懐かしがってもらう」というふうには全く聞こえませんでした。あのアルバムが発表された時も今も、音楽の質に変化がない。というか、時の流れなど超越してしまっている名曲たち。それを今でもちゃんと演奏し、歌うことが出来るキャロルという音楽家の底知れない才能。そんなものを感じさせる、ものすごい1時間でした。もちろんコンサートは楽しく、決して変に真面目さを強調するようなものではなかったですが、僕は心から感動しました。
 そしてアンコール。ここでは他の2人も登場して、1曲目は「Dancing In The Street」。3人で交代でリードをとるという感じでしたが、こうなるとメアリーは強かったですね。キャロルはものすごく楽しそうで、自分が歌わないときはずっと踊っていました。ここで僕はあらためて、キャロルが持っているソウル的センスがただものではないことを思い知りました。そして2曲目はもちろん「(You Make Me Feel like) A Natural Woman」。ここでもボーカルは3人でシェア。メアリーもファーギーも真剣に歌っていて、この曲が(そしてキャロルが)アメリカの女性(アーチスト)にとってどれだけ大切にされているかがよくわかりました。アンコールの時はバックはバンド構成で(前の2人のバンドのチャンポンでした)、それぞれの本番の時のような大音量ではなく「キャロル仕様」の音量音質でした。これが実によかったです。さすがプロだなあ、最新フォーマットでなくてもちゃんと様になるんですから。
 行く前は「キャロルに対して反応が鈍かったらどうしよう?」なんて失礼な心配をしていましたが、そんな心配まったく必要ありませんでした。キャロルは彼女に相応しい喝采を受け、それに応えて最高の歌を聴かせてくれました。ワンマンでなかったことが惜しまれますが、そのおかげでメアリー、ファーギーという2人の才能を直に聴くこともできました。ついでにそのおかげで、キャロルが女性シンガーにとってどれほど特別の存在であるかということを再確認もできました。コンサート終了は10時半近く。帰宅したらほとんど午前0時近くで、平日なので本当ならイライラしながら電車に揺られるところでしたが、昨日は全然そんなふうには思いませんでした。幸せな時間をありがとうキャロル。いつまでもお元気でがんばってください。コンサートで「今日が最後の夜だけど、とっても楽しかった。もっとずっと日本にいたいわ」とお話ししていましたね。その言葉が1日でも早く実現すること、また日本のファンの前で歌ってくれることを願っています。



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