レコード・コレクターズ12月号に思う

 今月号の「レコード・コレクターズ」はレッド・ツェッペリンの「永遠の詩」と「狂熱のライヴ」の、それぞれ再発完全版についての特集でした。ここに竹本潔史氏による「”73年のツェッペリン”を的確に捉えた最新CD/DVD」という文章があり、今回の収録曲を1曲ごとに、「どの箇所が何日に演奏か、どのように編集されているか」を、既発表のコンテンツはもちろん、非公式の映像、ブート音源までリファレンス資料として使用して分析した労作です。文章としても読みやすく書かれていますが、60〜61ページに表形式でまとめられたものも大変わかりやすく、大変貴重な記事だと言えるでしょう。これを読むと、ひとつの公式テイクを完成させるために、どれだけ手間をかけているかがわかります。こうした編集の是非については両論あるでしょうし(僕もケースバイケースかな?くらいには思います)、特にゼップのような歴史的グループの録音や映像は、むしろ無編集で出した方が価値があるとも思いますが、それはそれとして、大変な作業だということはわかります。それを解明してしまう竹本氏にも脱帽です。今回は特集記事の中には、特筆すべき記事は他になかったんですが、この記事だけで雑誌1冊分の価値はありました。
 とまあ、今回も買った甲斐はあったと思っていますが、ひとつどうしても(悪い意味で)引っかかるものがありました。上の記事は褒めたので、バランスを取って(?)ちょっと批判的なことを書きます。
巻末の「リイシュー・アルバム・ガイド」6ページ中段に、岡田敏一という人による、フランク・ザッパのリイシューについてのレビューが掲載されています。リイシューの内容は、ザッパの生前最後の時期くらいに発表されていたいくつかのアルバムが紙ジャケボックスになったというもので、基本的に褒めています。僕もこの中の何作かは(以前バラで発表されたときに)購入していて、内容は大体知っていますので、褒められるのはいいと思います。
 なんですが、最後になんだか変なことが書いてあります。引用しますと「いつの時代もこの男の視点や発想が全く揺らがなかったことがわかる。権威や権力を笑いでぶった切る唯一無二のロッカー、ザッパ。マイケル・ムーア監督の三流ドキュメンタリー映画のような“えせザッパ”的発想がもてはやされる昨今の惨状をあの世の本家は嘆いているだろう。」というところです。
 僕が引っかかったところはまず作品としての今回のボックスの評価。ボックス収録作品はライヴ、バンド編成の作品、ジョンとヨーコ参加のもの、室内楽用の作品と、非常にバラエティに富んでいて、もっと言えば統一的なところは希薄です。今回の諸作品に何か統一的なテーマや見解があるわけではありません。音楽的な語法すら様々です。「全く揺らがなかった」という修辞は、ザッパらしいという意味では正しいですが、これからボックスを購入しようと思っている(作品について知らない)人にはむしろ不親切な文章でしょう。
 引用した部分の後段はさらにおかしくなっています。一読しておわかりになるかと思いますが、なぜここにマイケル・ムーアが登場し、そして貶されるのか。僕は別にムーアの熱心なファンではないですが(嫌いでもないですよ念のため)、わざわざここに名前を挙げ、そして「三流」「えせ」「もてはやされる」「惨状」「本家は嘆いている」などと書かれる理由がまったくわかりません。そもそもザッパは音楽家、ムーアは映像作家であり、活動分野が全く違います。当然物事に対するアプローチは違うでしょうし、そもそも政治的立場、芸術的立場は、人が違えば全く違って当たり前です。それを説明もなしに突然このような形で取り上げて、まるでザッパの代理人かのようにからかっているのはどうしたことでしょう?
 百歩譲ってムーアが「三流映画」監督だったとして、どうしてここでザッパと比較されて悪く言われるのか?繰り返しますが、この2人をわざわざ引き合いに出し、そして一方を批判する理由が不明です。この文章はまるで筆者の見解がザッパの見解とイコールであるかのように(非常に浅薄な修辞技法で)書かれていますが、その根拠は示されていません。「ザッパに比べれば、ムーアの作品など三流で“えせザッパ”だと(自分は)思う」と書けばいいのに、自分の政治的立場は明確にせず、主語を曖昧にし、まるでこのような比較結果が客観的に(ザッパ側から)提示されているかのように装うのは、これが思想的なアピールの文章ではなくCDのレビューだったとしても、なにか底の浅い見栄、あるいは「何か言われた時の逃げ道を用意しての虚勢」を感じてしまいます。
 僕は人がどんな政治的立場をとるのも自由だと思いますし、僕自身ザッパの歩んだ道は評価していますが、この文章はいくらなんでも無神経すぎると思います。ゼップの記事は素晴らしかったし、デイブ・グリーンスレイドのインタビューもうれしかったし、ビートルズとポールのDVDやアレサなども興味深かったこの号ですが、この短いレビューの文章でちょっとがっかりしてしまいました。気分直しに明日「永遠の詩」買ってきて、竹内氏の記事を読みながら聴くことにしましょう。ふう。

レコード・コレクターズ 2007年 12月号 [雑誌]

レコード・コレクターズ 2007年 12月号 [雑誌]