最初に聴くジョージ、主観的回答

 先日の日記についてのコメントで、GORICOさんから「ジョージのソロで最初に聴くべきものは?」という質問を受けました。それを昨日今日考えました。でもなかなか難しいですね。こういうのは、一般的な評価が高いものを推薦するのがいいのか、個人的な好みで語るのがいいのか、迷うところです。
 一般的にいうと、1970年の「All Things Must Pass」と1979年の「George Harrison(慈愛の輝き)」が順当ということになります。これはあんまり異論が出てこない選択でしょう。前者は事実上の初ソロ作で、名曲も多く、演奏プロデュースも申し分ないです。後者は自身の会社「ダークホース」からの代表作で、今では「最高傑作」の呼び声も高いです。どちらも僕は大好きですし、世評どおりの傑作だと思います。お勧め銘柄です。でも、ひとつ問題が、、、、。
 つまり、この2作はジョージ全作品の中での最高峰なので、これらを最初に聴いてしまうと、これを基準に他の作品を聴いてしまうことになるんです。そうなると他の作品はちょっと分が悪い。相対的に低く見えてしまうかも知れません。本当に駄作凡作ならそれでもいいですが、ジョージの場合は決してそんなことはないので、ちょっと困ります。さて、どうしよう?
 迷い悩んだ末、僕が推薦するのは次の2枚です。アップル時代は「Extra Texture」ダークホース時代は「Somewhere In England」。どちらも世評は高くないです。その意味では1回2回聴いたときの印象はさほどではないかと思います。でも僕がここに推薦したのは、単に奇をてらったんではなく、この2作に積極的な価値を見いだしているからです。
 「Extra Texture」は1975年の作品。アップル時代最後のリリースで、レーベル面に芯だけのリンゴが描かれていたことも有名な作品です。アップルがそんな状態で(新人発掘やプロデュースなど、アップルではジョージが一番積極的だったことを考えると、ジョージの心痛は相当だったでしょう)、しかも私生活上のトラブルなどがあった時期でもあり、コンディションは良くない時期の作品です。実際、はつらつとした雰囲気はなく、落ち着いたムードのアルバムです。でも、ここにあるのは単に落ち込んだ曲や演奏ではなく、ひとりの才能がそれまでの時代に決別して、新しいステージに上がろうとしている真剣な姿です。ジョンでいうと「Walls And Bridges」ポールなら「Tug Of War」リンゴだと「Time Takes Time」ですね。曲は1曲目「You」(これは大名曲)意外はミドル〜スローテンポの曲が並び、ギターも控えめですが、曲の深さ、メロディの美しさは随一といっていいです。本当のジョージファンは、このアルバムを愛することができるはずです。
 「Somewhere In England」は1981年の作品。あのジョンの事件の翌年で、ジョンに捧げた「All Those Years Ago」が収録されているアルバムです。この作品は、リリース前にレコード会社から曲の差し替えを強制され、ジャケットも変更させられたという逸話で知られるもので(ジャケットデザインはその後復活)、ファンの間でも賛否両論あるものです。「Gone Troppo」の評価がだんだん上がって来た現在では、とても分が悪い作品です。でも僕は、このアルバムにも価値があると信じています。このアルバムには、明るいジョージ(「Teardrops」「Unconsciousness Rules」)、敬虔なジョージ(「Life Itself」)、トリッキーなジョージ(「Blood From The Clone」)メッセージメーカーとしてのジョージ(「Save The World」)など、ジョージの様々な顔が一度に経験できます。ギターもほぼ全編にフィーチャーされていて、これまたいろいろなタイプのジョージのギターを堪能できます。惜しむらくは演奏全体がこじんまりとしていて、力強く聴き手に踏み込んでこない感じで、そこが世評の低さに繋がっているのかも知れません。でも、この作品もぜひしっかりと聴いてほしいです。差し替えられたというものも含めて曲は決して悪くないです。ジョンの死が与えた影響で、前作「George Harrison」よりも宗教的な部分がありますが、アップル時代の一時期ほど露骨ではなく、ほどよく音楽と調和していて聴きやすく、ジョージの込めた思いも伝わりやすくなっています。
 この2作品、決して(普通の意味での)最高傑作ではなく、むしろクセのあるアルバムだと思いますが、これを最初に聴いたあとに広がっていくジョージの世界の中では、欠かせない位置を占めている、真剣に聴くに値するものだと思っています。主観丸出しですが、参考にしていただけたら幸いです。

Extra Texture

Extra Texture

Somewhere in England

Somewhere in England