リンゴの新曲 そしてニルソンの名唱

 リンゴ・スターのニューアルバムが発表されるそうです。Taishihoさんのブログで情報を知り、ふとiTunes Storeを覗いてみると、新曲が配信されていました。早速購入。ビートルズ色の濃い、少し感傷的なメロディとアレンジで、歌われているのは自分の生い立ちとビートルズ時代のことのようです(聞き取りなんで間違っていたらごめんなさい)。「僕はリバプールを去った。運命の呼び声に従って/居続けることはできなかった。でも、期待はずれではなかったはずだよ」というサビ。エンディングで繰り返される「Liverpool!」というコール。深い意味はないですが、これを聴いていると、70歳近くになったリンゴが、故郷への思いをはき出しているような気がします、まるで「歌える・形にできるうちに」やっておこうと心に決めたかのように。もちろんまだまだ現役でがんばっているリンゴにこんな書き方は失礼かと思いますし、僕もますますの活躍を期待していますが、そうした感想も出てきてしまうほど、今度の新曲は心に迫ります。
 今日はクリスマス・イヴ。新曲を聴いた流れでリンゴのクリスマス・アルバムを聴きながらこれを書こうと思っていたら、山のように積まれたCDの山に埋もれてしまって、探しても出てきません。こういうときに限ってiPodにも入れていない、それでは同じリンゴの「Sentimental Journey」を、と思ったんですが、こちらもやっぱり発見できず(涙)。整理していない僕が悪いんですね、すみません。
 で、結局、リンゴの飲み仲間で、「Sentimental Journey」と同じスタンダード集であるニルソンのアルバムを出してきました。「As Time Goes By」というアルバム。名盤「A Little Touch Of Schmillson In The Night」の完全版。ニルソンの死後だったかに発表されたアウトテイク集に収録されていたものもまとめて一つのアルバムにしたもので、「A Little Touch〜」の世界が倍くらいのボリュームで楽しめる素晴らしい作品です。オリジナルの「A Little Touch〜」では断片しか登場しなかった「Over The Rainbow」もフルコーラス聴けます。どの曲もゴージャスですが抑制の効いたオーケストラアレンジで、イヴの夜に聴くにも不足はありません。
 ちょっと知った風なことを書かせてもらうと、確かにスタンダード曲を昔風のアレンジでしっとり歌ってはいても、そこはさすがニルソン、やっぱり聴いているとアーチストとしてのこだわりや前向きな姿勢が感じられます。そのへんが、本当に昔の音楽だけが好きな一部のミュージシャンとは違います。このアルバムも、彼のボーカルは実にしっとりしていて、取り上げた曲や時代への愛情に満ちていますが、一方で逆説的に「自分の生きている時代」への執着も感じます。彼の後半生は、どちらかといえばそのバランス感覚がおかしくなってしまい、音楽活動も思うようにいかなくなってしまうんですが、この作品が作られた当時(1973年)は、本当に見事にこの「綱渡り」をやり遂げています。今こうして部屋に流していると、妻などは「いい感じだよね」と言いながらゆったりと聴いていますが、僕はといえば、気持ちよく聴きながらも、彼の底知れない(でも繊細で壊れやすかった)ひとりの才能あるミュージシャンに思いを馳せます。今夜はクリスマス・イヴ。ニルソンの魂も安らかでありますように。
 「本当に大切なものは変わらない/時が過ぎようとも」(このアルバムのラスト「As Time Goes By」より)。



A Little Touch of Schmillson

A Little Touch of Schmillson