ドリーム・シアターのオフィシャルブートでパープルを見直す

 ふう。今日はクリスマス。保育園のパーティで「サンタに会った!」という高テンションのドレミにつきあって踊ったり歌ったりしていたら、すっかり疲れてしまいました。こんなことがこれから毎年あるんでしょうか?こっちはこれからどんどん年老いていくのに(笑)。
 以前の日記で、ドリームシアターのオフィシャル・ブートレッグでピンク・フロイドの「The Dark side Of The Moon」を完全再現したライヴというのを取り上げました(こちらの日記です)。そのときにいろいろ検索した情報のなかに、「彼らはツアーの中で必ずこういう自分たちが好きなアーチストへのトリビュートコンサートをやっている。日本ではディープ・パープルの『Live In Japan』再現コンサートをやって、発表も予定されている」というものがありました。これはすごいことだ、発表が待ち遠しいな、と思っていましたが、自分からリリース情報を集めたりすることもなく日々が過ぎ、2007年も師走になりました。それが、つい数日前ですが、偶然入った輸入盤屋さんで発見しました。もう出ていたんですね。ジャケットもフロイド盤と同じセンスでなかなか(オリジナルアーチストのファンにとっては)目を引くもの。1枚モノ輸入盤としてはちょっとお高めでしたが、購入しました。フロイドのときもその再現ぶりと演奏レベルの高さが楽しかったこのシリーズ、今回も期待と共に持ち帰りました。
 内容はというと、曲数曲順ともパープルのものと全く同じ。そのへんのこだわりはさすがです。演奏はドリーム・シアターらしいテクニカルなもので、ノリもよかったです。なにもかも完全コピーするという感じではなく、ソロの部分ではけっこう自由に弾いている感じなのも、フロイド盤とちがって「ライヴ盤がオリジナル」だからでしょう。でも随所に「!」という箇所はありました。アルバムの冒頭部分ではジョンのキーボードの「指ならしフレーズ」が入っていますし、「Smoke On The Water」ではリッチーの「弾き直し」もしっかりコピーしています。「Space Truckin’」の後半の長いインプロパートは、本家のものよりも密度が高い感じで、そのあたりはさすが現役最高のテクニックを誇るバンドの面目躍如ですね。総じて演奏レベルは高く、楽しめるものでした。なにしろわざわざ日本で収録したことも含めて「やるならここまでやろう」という気持ちはロックファンとして嬉しいです。
 ここから後のことは、批判ということではなく評価をしたうえでのコメントとして読んでください。
 上述したように演奏の水準は高かったです。見事といっていいと思います。でも不思議なことに、ちょっと違う印象を受ける箇所もありました。整理して考えてみたら、次のようなことに気づきました。つまり「全員できっちりアレンジどおり演奏している箇所は素晴らしい。ところが本家のパープルが『アドリブをきかしている箇所』では少しズレてしまう」という感じです。例えば「Strange Kind Of Womna」、前半の演奏は見事です。文句つけません。後半だってちゃんと演奏しています(イアンのボーカルが再現できないのはしょうがないですね、あれは本家がすごすぎですから)。完全コピーというものではないですが、ちゃんとしています。実際にコンサートで観たら大感激でしょう。でもなにか違う。なにかが。これは「lazy」で、本家ではリッチーがリフのフレーズを弾くまでのイントロダクション部分でも感じる感覚です。演奏がだれるわけでもないのに不思議に感覚的に違和感がある。
 そこから、この2つのバンドの持ち味の違いがわかってきた。つまりドリーム・シアターは「全力で(バンドの能力をフルに使って)」このアルバムを再現しようとがんばっているのに対して、本家パープルは、もっと余裕があるんです。これはこのライヴの成り立ちを考えれば当然で、DTを批判するにはあたりません。ただ、並べて聴くと、やっぱりパープルの方に、「まだ余力がある中でこれをやっている」という印象をもってしまいます。
 前述の「Strange Kind Of Woman」の、ギターとボーカルのかけあいパートが終わり、バンドの演奏に戻る前の一瞬(バンド演奏に戻る前、合図としてリッチーが3回弾く「あのフレーズ」に入るところ)、DTはほんの少しだけ、リズムがずれます。一瞬ひるむ、という感じです。もちろん気にしなければまったく気にならないレベルですが、僕はそこを聴いたとき、息をのむほどドキリとしました。DTほどのバンドでも、これほど真剣に、愛情と尊敬を持って演奏しているバンドでも追いつけない、何かが、あの当時のパープルにはあった。それは言葉にしてしまえば「卓越した技術を持ったバンドが余裕をかました」ということになってしまうんですが、実際の演奏を聴き比べると、まったく段違いの差のように感じられます。あっぱれパープル。
 これは思わぬところで、当時のパープルのとんでもないポテンシャルを確認できました。ハードロックの教科書のような楽曲があまりに有名で耳タコのせいで、なんとなく軽く考えていた彼らの力量ですが、とんでもない。DTでさえ必死でないとできないようなことを、にこやかにリラックスして、遊びを交えながらも達成してしまう、文字通り「とんでもない」バンドだったんですね。今回買ったDTのアルバムも購入するに値する素晴らしいものでしたが、棒にとってはそれ以上に学ぶことが多い作品でした。
 追記:クレジットに「Recorded Live at NHK Hall-Osaka」となっていて、実際演奏中も「オーサカー!」と叫んでいるんですが、NHKホールって大阪にもありましたっけ?それともこれは本家のアルバムがほとんど大阪収録なのにジャケットが武道館だということまでわかったうえでクレジットしているジョークなんでしょうか?そうだとしたら座布団10枚!ですね。