テーマが何であっても(笑)

 浪人中、予備校の先生が「小論文だけで慶応大学に合格する方法」を教えてくれました。要するに冗談ですが(笑)。それは次のようなものです「テーマが何であっても福沢諭吉に結びつけて褒める」というものでした(笑)。幸か不幸か僕は慶応大学を受験するようなこともなく、これが有効かどうか確かめる術もないまま受験生時代を終えたんですが、この「テーマは何であっても○○に結びつける」という表現が面白くて、その後たびたび雑談のネタに使わせてもらいました。もしかして予備校で教わったもののうち、最も役に立ったものかもしれません(笑)。
 今、「第九」を聴いています。ここ数日ずっと、折に触れて。何故かというところと聴いた結果については後日アップしますが、とにかく聴き続けています。同じ曲を繰り返しているのできついことはきついですが、曲自体は好きなものですし、演奏もいいものなので、まあ、いい機会だと思ってがんばっています。で、数日前に某CD屋のクラシック売り場に寄ったところ、1冊のフリーペーパーを発見しました。題して「第九」(笑)。本当に表紙にそう大きく書いてあります。「ぴあ」が発行の、第九を中心としたクラシック情報誌で、第九の解説やトリビアめいたエピソード、コンサート情報やお勧めCDの紹介、演奏家のコメント、それに「第九のコンサート後に行ける、ドイツ料理とドイツビールのレストラン紹介」など、どちらかというとクラシック初心者向きの内容でしたが、それなりに面白かったです。コンサートリストを見ていると、日本全国で年末にものすごい数の第九コンサートがあることがわかり、改めて我が国での第九人気が実感できます(揶揄されることも多いこの風潮ですが、僕はけっこうなことだと思っています)。
 この冊子の中に、第九が登場する映画が紹介されているコーナーがありました。「不滅の恋/ベートーヴェン」や「敬愛なるベートーヴェン」、「バルトの楽園」などがメインでしたが、コーナーの中に「映画で使われる第九の意味」という単文があり、それ以外のものも紹介されていました。「人類の救済」というテーマを究極まで突き詰めたタルコフスキー(「ノスタルジア」、「ストーカー」)、第九の理想と現実世界とのギャップを象徴したもの(「時計じかけのオレンジ」、「ボウリング・フォー・コロンバイン」)などがありましたが、もう1本の映画も紹介されていました。
 それは「Help!」です。ビートルズファンのみなさんには「ああ、あれか!」と思い当たるかと思いますが、この映画の中にも第九が登場します。リンゴのはめた指輪を巡って、変な宗教団体、変な科学者に追われて逃げ回るビートルズの前に、1匹のトラ(「A Tiger」とテロップが出ます)が現れます。絶体絶命のリンゴ!そのとき聞こえてきた「そのトラは『歓喜の歌』を聴くと大人しくなる」という声に、みんなで歌い始めます。ジョンはハーモニカまで吹き始めます。居合わせた人たちも唱和し、「さあ、みなさんもご一緒に」という感じでだんだん歌声が大きくなり、最後にはオーケストラ伴奏の大合唱になってしまいます(画面はどこかの競技場の大観衆の映像になってしまいます。この辺のイメージの飛び方は後の「Monty Python」に近いセンスといえますね)。この冊子では「“調和”のメッセージを謳いあげる「第九」の力を、いわば逆手にとった演出である」と書かれていますが、そんなに深い意味はないでしょうね(笑)。もっともらしいものを持ち出してきて笑ってしまうというセンスは、監督のリチャード・レスターの得意技ですし、なによりビートルズ的でしょう(この映画の1年前のインタビュー「ベートーヴェンは好きですか?」「好きだよ、特に詞がね」も思い出されます)。先月リマスタリングされて画像も音も綺麗になったDVDが出ているので、興味のある方はぜひご覧になってください。ご存じのとおり、うちには限定版がありますので、年末もう一度見返してみます。
 さて、今日の話しはこれで全部です。もう一度タイトルと最初の段落を読んでください。「テーマが何であっても○○に結びつける」。そう、もうおわかりでしょう、今回の文章は「テーマは第九だけどビートルズに結びつける」(笑)。いつもこんなことやっているような気もしますが(笑)。正直、この冊子で「Help!」が出てきたときはすごく楽しかったです。こんなところで会えたね!という感じで。わけあって第九にまみれているここ数日ですが、そんなことがあったおかげでこの冊子を手に取り、ビートルズネタも仕入れることができました。ありがとうベートーヴェン(笑)。
 さて、寝る前にもう1回聴くか、第九(笑)。

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

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