NHKスペシャル「ウェイクアップ・コール」

 昨日(2月4日)、NHKスペシャル「ウェイクアップ・コール 〜宇宙飛行士が見つめた地球」を観ました。これは(一部では有名な)スペースシャトルなどのアメリカの宇宙飛行士のために、地上の管制センターが1日の始めに流す音楽です。それにスポットを当てた番組ですから、僕のような人間には楽しくないはずはありません。そういう気分でチャンネルを合わせました。果たしてとても面白い番組でした。でも、僕が観る前に想像していたものとは違う「面白さ」があふれた番組でした。
 番組は冒頭、ウェイクアップ・コールを説明するテロップとともに、U2の「Beautiful Day」JBの「I Feel Free」そして「Here Comes The Sun」が続けて流れました。映像はシャトル国際宇宙ステーション、そして美しい地球のもの。その後「21世紀最初のウェイクアップ・コール」として「美しく青きドナウ」(さすが!)が流れて番組名が出ます。ここまでは僕の想像どおりでした。
 その直後画面に現れたものは、あの9.11のニューヨークでした。宇宙から撮影されたというニューヨーク上空の煙が映り、そしてあのとき、国際ステーションに滞在中だったアメリカ人宇宙飛行士のインタビューが続きます。ペンタゴンに墜落した飛行機のパイロットの同級生だったというその飛行士が、あの事件の瞬間に何を見て何を感じたか、そしてそれから何を考えたか。軍人でもあるその飛行士が当初感じていた怒りや当惑、そして事件から数日後に書いたというメール(淡々と窓から見える美しい地球の様子を伝えるもの)と「自分が感じたことを誰かと分かち合いたいと思ったんです」というインタビュー。地上に帰還する日、コールとして家族が選んだ(当時ニューヨークでよく流れていたという)「地に平和を、一歩ずつ、みんなで始めよう」と歌われる歌(僕は知らない歌でした。少女?の声で歌われるバラードです)。
 番組はもう1人、2003年に爆発事故を起こしたスペースシャトル「コロンビア」に搭乗していたイスラエル人飛行士のことを取り上げます。この人もまた軍人で、イラク攻撃により祖国では英雄だったそうです。打ち上げ前には自分のユダヤ人としてのアイデンティティに目覚め、ホロコーストの犠牲者の少年が収容所で描いたという「月面の絵」のコピーを携えて宇宙に飛び立ったというこの飛行士。その飛行士の心に変化が訪れていたということが、遺品として回収されたボロボロの日記を復元することでわかりました。宇宙で数日を過ごしたのち「初めて宇宙を実感した。この日、僕は生まれ変わったような気がする」と書いていたというのです。さらにその数日後、シャロン首相にあててのメッセージでは「ここから見る美しい地球で、人間が住める場所は狭い。この地球をみんなで守らなければ行けないと思います」と話し、さらに数日後、同僚のアメリカ人飛行士のリクエストでシャトル内に流れたという「Imagine」を一緒に聴き、その同僚が話した「ここから見える美しい地球のように、すべての人が国境線のない世界で平和で生きられるようにと願っています」というメッセージをヘブライ語に訳して話しています。
 番組は随所に美しい地上の映像が流れ、国境のない世界が映ります。でも地上は様々な理由で線が引かれ、軋轢があり、争いが絶えません。共に軍人であったアメリカ人とイスラエル人の飛行士2人の心に訪れた変化には、不思議な一致があります。2人とも「これこれが正しい」というようなところから離れ、ただ地球の美しさ、儚さを愛して、人間がそこに寄り添うことを願っているようです。
番組には明るい話題もありました。ディスカバリーに搭乗した野口聡一さんのコールは、ヒューストンの日本人学校の子どもたちが歌う「さんぽ」(となりのトトロ)と「世界に一つだけの花」だったというものや、ウェイクアップ・コールの伝統はアポロ17号までさかのぼること(このときの曲はカーペンターズの「We’ve Only Just Began」すばらしい!)、過去流れた曲の中では「Bohemian Rhapsody」「Star Wars」「Rcoky」などがあったことなども紹介されていました。今までで一番たくさんのリクエストがあったのは、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」だったそうです。
 番組の最後にナレーターは「宇宙で朝を迎えた飛行士はみな『かけがえのない地球』という言葉を口にします。地上と宇宙を結ぶウェイクアップ・コール。これから宇宙に行く人は、どのような曲で目覚めるのでしょうか?」と語ります。宇宙から見る、美しく、たった一つの故郷。番組の最後に流れるのはアポロ17号のミッション時に流れた1曲、ロバータ・フラックの「The First Time Ever I Saw Your Face」でした(これは、月から見える地球のことをイメージしているんでしょうね)。
 僕は最初、宇宙の映像と音楽があって、いくぶん明るい宇宙開発エピソードの番組が見られれば満足でした。そういう側面もありました。でもこの番組は、僕の想像を超えて、はるか宇宙から見ることで、この地球がどれほどの価値を持っているかを教えてくれました。僕にとって幸いだったのは、その仲立ちをしてくれたのが、僕が愛する音楽だったことです。僕はもう宇宙に行くことはないでしょう。でも僕たちの子どもたち(世代)には道が開けているはずです。そのとき、地球はどんな表情をしているでしょう?そしてそこにはどんな音楽が流れるんでしょう?