コンサート評 2月13日ポリス(東京ドーム)

 実は今、娘のドレミが風邪をひいて保育園欠席中、そしてコピも病気で病院通い(こちらは今は落ちついていますが)という状態なんですが‥。
 昨日(2月13日)東京ドームに行ってきましたすみません。目的はポリスのコンサートです。日曜に清志郎さんのコンサートに行ったばかりなのにすみません。偶然こういうスケジュールになってしまい、家族には負担をかけてしまい、けっこう大変でしたすみません。行ってきたけど。
 そろそろ時間かな?と思う頃にPAから大音量でボブ・マーリーの「Get Up Stand Up」がほぼフルコーラス流れ、そのまま消灯〜オープニング。ほんと、このバンド、ロック的なルーズさとは無縁のパンクチュアルさですね。1曲目はいきなり「Message In The Bottle」。僕は事前情報をほとんど知らずにこの場にいたのでビックリしました。コンサートは時々スティングが日本語混じりのMCを入れる以外は長いインターバルもなくハイペースで進みました。サポートミュージシャンはいない、純粋に3人だけの演奏です。これは僕にはたまりませんでした。以前出ていたライヴ盤での「シンクロニシティ・コンサート」音源はコーラスやキーボードなどのサポートがいて、それが僕には不満だったんですが、今回は僕が聴きたいと思い続けていた「キャリア後期の作品を純粋な形で聴ける」機会になりました。これがもう、とんでもなくすごいものでした。
 僕は過去にポリスのコンサートを観ていません。なのでアンディとスチュは初めて生で鑑賞したんですが、これほどすごいとは!?なにしろ演奏が上手すぎる。まずアンディ、この人以外はリズムセクションなので、リズム以外はすべてこの人にかかってきます。そして、それをやってしまっていました。本当。リフもオブリガードもソロもすべて。この人の場合、ギターの音は1種類ではなく、各種のエフェクターでずいぶん加工しているのですが、それがことごとく的確で、空間の演出からハードなソロまでなんでもあり。しかもあれだけ演奏していながら少しも「弾きすぎた」感じはしません。確か年齢は一番上だったアンディ(見た目もそんなふうでした)ですが、そんな感じは全くなしのプレイでした。
 そしてそれはドラムのスチュも同じ。この人の特徴である、独特のチューニングとフレーズは健在。どの曲でも細かいオカズを入れまくり、走る走る。ポリスの曲(特にライヴテイク)に特徴的な「ジャストよりほんの少しだけ早めにドラムが入ってくる」感じがコンサートでもちゃんと感じられました、というか、「ドラムだけ走ってる?」と思えるような箇所さえありました。でも演奏がモタッたり破綻したりしないんです。曲によってはドラムセットから、一段上にセットされたパーカッション群に移って演奏をするんですが、その音色とニュアンスの多彩さは見事の一言です。代表的な曲ばかり演奏した今回のコンサートですが、僕にとってのベストテイクはスチュ大活躍の「Wrapped Around Your FInger」です。
 そしてスティング。僕はアンディ、スチュは今回初めて生で演奏を聴きましたが、スティングは過去何回か観ています。そして、正直なところ、一度も本当の意味では感銘を受けたことはありませんでした(いいなとは思うんですが)。今回のコンサートだから何かが大きく違うわけではない、相変わらずスティングは自作の曲を歌い、ベースを演奏しています。今まで観たときもそうでしたが、それは実に上手いものでした。でも違う。何かが明らかに違う。それはきっと、ソロでのバンド演奏ではスティングがリーダーであり、ミュージシャンはみんな「スティングを盛り立てるために演奏している」のに対して、ポリスでのアンディ、スチュは、そんなもののためには演奏してないからでしょう。3人はみんな、他の2人と楽しんだり友情を深めたりするのではなく、ポリスという存在のために全力を尽くしているようです。
 上にちょっと書きましたが、アンサンブル(というよりテンポ)は、主にドラムが原因だと思いますが始終走り気味という印象でした。本当なら演奏はずれてしまうか質を落としてしまうんですが、ポリスの場合は全員がまるで張り合うかのように演奏するので、結果的に音楽に緊張感がみなぎり、質が高かまっていきます。他のあらゆる場面で尊敬され、尊重され、評価されるスティングが、「この世でたった2人」自分の言うことを聞いてくれないアンディとスチュ。でもポリスの音楽は、まさしくスティングとアンディ、スチュの3人でしかこの世に再現させることができないものなんだということを、今回のコンサートは証明してくれました。
 実際のコンサートは「Walking On The Moon」「Don’t Stand SO Close To Me」「Synchronicity 2」「Do Do Do De, Da Da Da」「Roxanne」「Every Breath You Take」などなどヒット曲満載でした。演奏は上に書いたように熱演名演で、スティングのボーカルも含めて満点といえます。でもなぜか、いわゆる「ロック的な熱気」のようなものは希薄でした。例えば数日前に観た清志郎さんのコンサートのような暖かさや微笑ましい部分はあまり感じられず、違う感触の美を感じました。ベタな例えですが、美しい氷の彫刻のような、僕たちが普段ロックやポップスに期待し、得ている生々しさとは明らかに違うものと感じました。これは彼らが現役時代から言われていたことで、そのせいでいわゆる「ロック論壇」では不当な批判を受けていました。でも僕は、彼らは彼らのやりかたで新しいロックの表現を行ったんだと思っていました。それは今回のコンサートの感触に直に触れた今は確信に変わりました。
 この日のコンサートの終盤は、「Can’t Stand Losing You」「King Of Pain」「So Lonely」など、ほとんど被害妄想といっていい歌詞の曲が連続して出てきました。昔は「それっぽい語彙をなぞっただけの優等生ロック」と揶揄されたものですが、こうして20年以上の時を経て聴けば、結局この曲の世界(つまり、ポリスの世界)は、ロック以外のどの音楽ジャンルでもちゃんとした位置を占めることができないフリーキーなものであること、そしてやはり、どうしようもない切実さを体現したものであるという点でもまさしく「ロック」なんだと思います。肝心なことは、この世界は、例え作者であるスティングをもってしても、単独では再現ができないものであったということを、今回の再結成が証明していることです。本当に見事な演奏でした。本当の意味で「これほどすごいとは思わなかった」という感想しか出てきません。家族に迷惑かけても行って良かった。先日の清志郎さんともども、今年の大収穫の一つです(清志郎さんは別格中の別格ですが)。