追悼 広川太一郎

 今日は法事で、日中出かけていました。天気に恵まれて、過ごしやすい1日でした。
 で、今になってネットのニュースを見ていたら、広川太一郎氏の訃報が載っていました。一瞬絶句。
 僕世代の人間にとって、広川氏の声と語り口は、絶対に忘れられないものです。広川氏の語り口というと、どうしてもあの独特の口調とアドリブが最初に思い浮かびます。でも実際にインタビューなどを読むと、あれは単なる思いつきや瞬間芸ではなく、事前に入念なリサーチや訓練を重ねていたことがわかります。だからこそ制作から何十年も経た今でも鑑賞に耐えるものになり、参加された作品のソフト化に際しては、多くのファンから「広川氏の吹き替え音声を!」と望まれるのでしょう。
 僕の世代だと、広川氏の初体験はたぶん「チキチキマシン猛レース」のキザトトくんだと思います。その後、あの美声は途切れることなくテレビで聴き続けていましたが、名前を意識したのは「宇宙戦艦ヤマト」の古代守からでした。お名前を知ったのはそのあたりからですが、実は僕には、それ以前に忘れられない配役がありました。それは「謎の円盤UFO」というイギリスのテレビドラマでの、主役であるストレイカー最高司令官の声です。これは、ダジャレともアドリブともまったく関係ない、抑制の効いた大人の声で、子供心にも「かっこいいなあ」と思えるものでした。ご存じの方も多いと思いますが、この作品はSF作品で、しかもどちらかというと暗いムードで進行するシリーズでした。そうした全体のトーンに、広川氏の声は実に見事にはまっていました。このシリーズは数年前にDVDボックスが出て、僕も持っていますが、いつもオリジナル音声ではなく、日本語吹き替えばかり観ています。今聴いても、抑えた口調と緊張感のある演技は、「これが理解できる日本人でよかった」と変な喜びがわいてくるほどです。
 洋画の鑑賞というと、「原音尊重」の立場から「オリジナル音声・字幕」主義が主流の日本ですが(それはそれで正しいと思います)、セリフの細かいニュアンスや声優陣の至芸を堪能できる吹き替え版も、素晴らしい芸術だと、僕は思っています。そうした吹き替えはもちろん、アニメやラジオDJ、ナレーションなども含めた「声」そのもので一世を風靡した広川氏。まだまだ早かった訃報だと思います。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
 追記:先日リリースになった「モンティ・パイソン」でも広川氏の声と演技が楽しめます。この作品のリリースが「間に合った」のが、せめてもの救いでしたね。
 もうひとつ追記:上の文章で「一世を風靡」と書きましたが、最初は「一声を風靡」と変換されました。この方が広川氏に相応しいかな?