リック・ウェイクマン来日!

 リック・ウェイクマンが来日するそうです。もうすぐ始まる(はずが延期されたらしい)イエスの北米ツアーには参加しないと伝えられたリックですが、なにをしているんだろうなあと思っていたらこのニュース。つまり、自分のツアーをしているんですね。行きたいなあ。僕はイエスやABWHではリックのプレイを体験していますが、ソロでの彼は未体験なのでとても惹かれます。
 いつも驚くんですが、リックの仕事量はすごいですね。イエスに参加したところから数えても35年以上のキャリア、セッションミュージシャンとしての時期を数えると、40年くらいになるはずです(キャット・スティーブンスの名曲「Morning Has Broken」(雨にぬれた朝)の印象的なピアノはリックのものです。他にも「え、この曲にも!?」という参加曲多し)。彼が中心になって作成し世に出たアルバムは100枚を越えています。これってすごいですよね。このブログの一番始めのころにも書いたんですが、プロのミュージシャンは、自分だけで作品を作って発表できるわけではなく、それを商品化して配給してもらう必要があるわけで、そこからこぼれ落ちるような形で一線から退いてしまうベテランが多いのに、なぜかリックだけはコンスタント(どころじゃないよね)にアルバムを出し、コンサートもやっています。僕は真面目に、彼の活動(の驚くべき継続性)は「ロックの七不思議」のひとつだと思っています。リックというとプログレの中でもスティッキーで前時代的な部分を代表しているような感じで(音楽としても、アーチストのたたずまいとしても)素通りしているロックファンも多いと思いますし、事実そういう持ち味の人なんですが、意外なことにポップな作品も(たまに)出しています。今日のお題はそのうち2枚「Rhapsodies」と「1984」です。
 「Rhapsodies」は1979年発表のアルバム。アナログでは2枚組(その後1度だけCD化されたときも2枚組でしたが、収録時間は80分ほど)。リックにとっては2度目のイエス時代、「Tormato」を出し「結成10周年ツアー」を行ったくらいの時期の作成です。このアルバムまでのリックのアルバムは、「ロックとクラシックの融合」というスタイルをとり、アルバムも全体を貫くテーマやストーリーがあるものばかりでしたが、「Rhapsodies」はそうした形式からやや離れ、相互には直接関連のない楽曲が並ぶという「普通のアルバム」という感じです。プロデューサーとしてトニー・ヴィスコンティが起用されている点もユニークです(リックのアルバムはほとんど総てセルフ・プロデュース)。
 クラシックの有名曲を編曲したものも収録されていますが、あまり大上段にかまえたアレンジではなく、比較的軽めの印象のものが多いです。曲も3分台から5分台のものばかりで、それまでの「アナログ1面に2曲」みたいな威圧感はありません。実際に聴いてみると、短くて軽いところが良い方に作用して、とても聴きやすい作品に仕上がっています。もちろんメインはリックのキーボードプレイですが、アレンジがすっきりしているのであまりしつこい印象はありません。よく聴けばいわゆる「手クセ」も多いんですが、あまり気にならず楽しめるのはプロデューサーの手腕かな?ただリズム処理はちょっともたついた感じ(これは、これ以後のリックのアルバムにはずっとついて回る課題になります)で、そのへんで好き嫌いが分かれるかも。
 「1984」は1981年に発表されたアルバム。「Rhapsodies」のあとリックはジョン(アンダーソン)とともにイエスを脱退(イエスバグルスと合流)、このアルバムは脱退後初のアルバムであると同時に長年在籍していたA&Mからカリスマに移籍しての第1弾でした。
 このアルバムでは作品のコンセプトという概念が復活、タイトルどおりジョージ・オーウェルの同名小説が題材になっています。とはいっても、同じ小説を題材にしたボウイの作品(「Diamond Dogs」)などと比べるようなものではなく、もっと「肩の力を抜いた」ものですが。
 このアルバムでは、「Rhapsodies」に比べても楽曲・編曲・演奏のクオリティが高く、それなりの手間をかけたものであることがわかります。複数のゲスト・ボーカルがいますが(1曲参加の盟友ジョン・アンダーソンも見事な歌声)やはり特筆すべきはチャカ・カーンでしょう。リックの曲で彼女が!?と思う方も多いかと思いますが、これがなかなかの熱唱。全然違和感がないばかりか、見事な出来映えです。僕のような人間にとってうれしいのは、ボーカルに対して曲や演奏が負けていないところで、ロックやソウルのファンの一部にいる「無条件でブラック系の音楽をヨーロッパ系音楽の上に置く」人達にこそ聴いてもらいたい秀作になっています。前作で気になったリズムのもたつきもなし。これはさすがにチャカを迎えるのだからと張り切ったに違いないですね。ちなみに全体の作詞はあのティム・ライス。言うまでもないことですが主役はリックのキーボード。でもそればかりが目立つことはなく、アルバム単位で評価できるものに仕上がっています。80年代中盤以後ウヨウヨ出てくるリックのアルバムは、プロダクションワークの脇が甘いものが多く、アイデアはいいのにアレンジや演奏で損をしているものがたくさんあるんですが、「1984」は非常に緻密に作られていて、しかもその緻密さがポップさと同居しているところがたまらないところです。
 今日取り上げた2作品のうち、「1984」は少し前に紙ジャケにもなりましたし(僕は未入手)、比較的入手しやすいですが、「Rhapsodies」はなぜかずっと廃盤状態です(僕が持っているCDは1986年にCD化されたときのもの)。リックのA&M時代の作品はこれ以外はすべて再リリースされているのに、どうしてなんでしょうね?作品の質が高く聴きやすいこうした作品が入手困難というのは、とても残念です。7月に来日するのなら、この機会にぜひ再発してほしいです。なんとなく先入観でスルーしている人達にも、ぜひ聴いてもらいたいアルバムです。
 でも実際のコンサートではやっぱり「ヘンリー八世」とか「アーサー王」とかがメインになるんだろうなあ(笑)。