ジョン・エントウィッスルの命日

 ザ・フーの来日が決まってから、毎日フー関連の音楽ばかり聴いています(笑)。初来日のときよりも盛り上がっているかも知れません。やっぱりワンマンということは大きいです。
 ところで今日は、ジョン・エントウィッスルの命日ですね。そうか、あれからもう6年か。あのニュースを知ったときは、悲しいというよりも信じられなかったですね。訃報の少し前からフーは、エクスキューズで武装した単発再結成ではなく、腰を据えて活動をしていましたから、なんだか実感が湧くまで時間がかかりました。伝えられた死の状況も、ロックンロールバビロンそのまんまというところが、どこか戯画的で(失礼を承知で書いています、ファンの方怒らないでね)、なおさらリアルさに欠けていた感じでした。
 僕は過去2回ジョンを観たことがあります。リンゴ・スターと「オールスター・バンド」の一員として来たときと、2001年、アラン・パーソンズトッド・ラングレンらと「ビートルズ・トリビュート」で来たとき。ジョンはフーのメンバーで初めて、そして複数回日本に来てくれていた人でした。どちらのステージでも、ジョンの出番では大声で声援を送りました。同じように喝采を送った人は決して多くはなかったですが、それでもジョン本人に届くようにと一生懸命声を上げている人は、みんなジョンの魅力を理解している人達だったと思います。
 ジョンの魅力と一口に言っても、それを簡単に説明するのは難しいですね。ザ・フーのベース奏者としての実力と才能は言うまでもないですが、彼の場合はあの一風変わった作詞作曲のセンスがあり(ついでに言えばファッションセンスも一風変わっていましたね)、これがなかなか曲者です。僕は一応彼のソロ作もほぼ総て聴いていますが、はっきり言って「万人向け」ではありません。明るい曲もあり、ポップなアレンジもあり、演奏が悪いわけでもないんですが、何かが「普通」じゃない。どこか「不思議なもの」を持っている。自分のアルバムに「Rigor Mortis Sets In」(「死後硬直」という邦題がついてますが、この邦題、ほぼ直訳です)なんてタイトルをつけ、ジャケットデザインを棺桶にしてしまう、不気味というか、「英国の悪趣味」とでもいうべき趣向。そして作品全体に漂う、得も言われぬ「B級感覚」(二流という意味ではありません念のため)。
 このへんの感覚はもろに好き嫌いが出てしまうもので、だからこそ「大メジャー」にもならないかわり、好きになると抜けられなくなるものです。僕はもちろん大好き。上に「英国の悪趣味」と書きましたが、例えば「くまのプーさん」や「不思議の国のアリス」あるいは「マザー・グース」を読んだときに感じる、あのどこか不気味な魅力。そういうものをジョンには感じます。
 実はさっき所用でクルマを運転したんですが、行き帰りに上で例に挙げた「Rigor Mortis Sets In」を聴きました。初期のロックンロールへの愛情を感じさせるアルバムで、「Hound Dog」「Lucille」それに「My Wife」のセルフ・カヴァーなどが収録されていますが、低音を重視したミックス、みっちり音の詰まったアレンジ、そしてどこか安っぽいエコー処理など、やっぱりどこか「不気味」です(僕はこのアルバムを聴くと、反射的にスクリーミン・ロード・サッチを思い出します。ロックンロールに対する愛情や一種の怪奇趣味、そして妙に音の厚いアレンジなどに共通点がありますね)。でも不思議に、作為的な感じもしません。フーというグループにあってはがっちりその音楽を支えていたジョンですが、ソロでの彼はもっと自由に振る舞えた。それが正直に出ているからかも知れませんね。
 

死後硬直(紙ジャケット仕様)

死後硬直(紙ジャケット仕様)

ジョン、そっちはどうですか?秋にはロジャーとピートが日本に来ますよ。4年前の日本公演ではメンバー紹介でピートが「うちのバンドには幽霊も何人かいるんだよな」と話していましたよ。あのとき、ステージにいたんでしょうか?もしよかったら、11月のコンサートにも来てくださいよ。キースも誘って。待ってますよ。