ITunes Storeの「クラシックものすごいお得盤」

 アメリカでは音楽ソフトの小売り売り上げ第1位になったというiTunes Store(以下iTS)、僕もときどき利用しています。購入もしますが、ありがたいのは30秒ですが試聴できることと、曲名やアーチスト名で検索が出来ること。検索は実はとても面白くて、ビートルズの曲名などを入力すると、本当にたくさんヒットして、洋楽系に強いiTSならではの「欧米でのビートルズ浸透度」がよくわかります(レコスケくんもそんなことしていましたね)。これについては稿を改めて書きたいと思いますが、今回はちょっと違う話題を。
 iTSではジャンルごとにポータルがあり、そこに「新譜」「お勧めアルバム」などが表示されていますが、その「クラシック」画面右側の「トップアルバム」(要するにチャートですね)を眺めていると、時々不思議なものが混じっています。前触れもなく現れ、前触れもなく消えていくそれとは‥。
 いわゆる「ボックスセット」です。配信音源でボックスもないだろうと思われるかも知れませんが、ボリュームはまさにボックスという感じのものが、考えられないような価格で販売されていることがあるんです。ちょうど今、「トップアルバム」第5位に「Bernstein Collecter’s Edition」というアルバムがランクインしています。これが何かというと、レナード・バーンスタインドイツ・グラモフォンに録音した、ストラヴィンスキーショスタコーヴィチの曲を網羅したセットで、「火の鳥」「春の祭典」などのバレエ音楽ショスタコーヴィチ交響曲数曲がまとめられています。曲単位でいうと全13曲、楽章ごとにトラックが分けられているので、それで数えると全88曲です。調べてみたら、この内容でCDのセットもあるらしく、輸入盤量販店で5000円超くらいで入手可能なようです。で、この配信ですが、価格はなんと1500円。これはけっこうすごい価格です。試聴してみたら、30秒だけ聴いてもわかるほどの名演で、CD(モノという意味でも、ビットレートという意味でも)にこだわらなければ、いい買い物だと思います。
 もちろん配信ですので、ものすごい高音質は望めないし、解説書の類もありません。でも経験的に知っていますが、ごく普通の家庭・ごく普通の再生装置で聴く限り、そんなに神経質にならなくても楽しめることも事実です。「ちょっとクラシックも聴いてみようかな」と思っている人で、CDショップのクラシック売り場の敷居が高いという人にとっては、手軽に入手でき、そこそこ楽しめるというのは、ファン層拡大にもいいのではないかと思います。
 実はこの「ボックス」、以前にも時々出現し、ごく短期間で販売が終わってしまうという、不思議な存在でもあります。僕は以前、カラヤン指揮ベルリン・フィルブルックナー交響曲全集と、アバド指揮のマーラー交響曲全集(こっちはオケはいろいろ、メインはウィーン・フィル)をそれぞれ1500円で購入したことがあります(調べていませんがCD価格の1割といっていいでしょう)。僕はそれを部屋で流していますが、厳密な音質はともかく、演奏の素晴らしさは確実に伝わってきます(部屋で普通のボリュームで流している限り、まったく違いはわかりません)。上に「短期間で販売が終わる」と書きましたが、上記2つのものと同時期に「ベーム指揮ベルリン・フィルモーツァルト交響曲全集」というすごいものがあり(やっぱり1500円)、購入を考えている数日のうちに跡形もなく消えてしまったという経験もしました。いったいこのカラクリはどうなっているんでしょうね?
 僕が中学生のころ、クラシックにはいくつも廉価盤シリーズがあり、1000円から1500円くらいで買うことが出来ました。録音が古かったり、マスターがくたびれていたりで、最新録音の新譜にはかないませんでしたが、名作名演も多く、そうしたものを聴きながら、少しずつ耳を肥やしていったものです。配信音源は音質も含めて、究極の選択ではないことは認識していますが、こうした新しい流れが、新しい音楽ファンを生んでいくのではないかと思うと、決して「安物の代用品」とばかり侮ってはいけないと思っています。
 今部屋には、1500円で購入したアバドマーラー交響曲全集のうち、第4番第四楽章が流れています。オケがウィーン・フィルですから、録音は1970年代だと思います。紛れもない名演です。それはこの配信音源を聴いてもリアルにわかります。クラシックマニアの方も、一度だまされたと思って試してみてはいかがでしょうか(30秒ですが試聴だけならタダだし)。でもいつ現れていつ消えるかわからないので、こまめなアクセスが必要ですが(苦笑)。