30年前の、もうひとつの「武道館」

 残暑!
 思わずビックリマークつけちゃうほど暑くて日差しの強い1日でしたね。ここしばらく天候が不安定で土曜日も雨模様だったんですが、8月最後の日は夏らしい1日でした。僕は仕事関連の書き物(?)があったので家にいましたが、妻とドレミは義母と待ち合わせて外食と買い物に出かけました。夕方は最寄り駅までクルマで2人を迎えに行きましたが、西日もまぶしく、国道も混んでいて、季節が変わるのを惜しむかのような「真夏の情景」でした。
 ところで毎年この時期(8月中旬過ぎ)になると聴くアルバムがあります。つまり、この時期に買ったのでその思い出込みでそうなっているんですが、ふと気づくと、そのアルバムを購入してから今年で30年。ということでそれを記念して、今日はそのアルバムのことをお題にします。アルバムのタイトルは「Live At Budokan」。今「チープ・トリックだね」と思ったみなさん、違います。もちろんそれも大好きだし、30周年ですが、今回のお題の主は「イアン・ギラン・バンド」です(ちなみにライヴ・アルバムに「武道館」の名前を冠したのはチープ・トリックよりもイアン・ギラン・バンドの方が半年以上前です)。
 イアン・ギラン・バンド。最近はCDも再発されているようですのでそれなりに再評価されているんでしょうか?僕の思いこみかも知れませんが、ソロ時代のイアンはどういうわけか低い評価に甘んじていたような気がします。「Live At Budokan」はソロ初来日時のライヴ・アルバムで、会場が武道館だというところに、彼の人気の根強さが表れています。イアンはこのあと音楽性を大きく(一般的な意味での)ヘヴィ・メタル方面にシフトしますが、このアルバムはその前の「クロスオーヴァー的」な音楽をやっていた時代のものです。
 だから、聴くとわかりますが、全然ヘヴィ・メタル的ではありません。せいぜい「Scarabus」がどっしりしたハード・ロックに聞こえますが、それ以外の曲はリフも性急な感じ、リズムも複合的で、ディープ・パープルのような音楽を期待すると肩すかしを食らいます。長いソロパートも、リッチーやジョンのような「絶え間のない閃き」というほどのものではなく、ちょっと聴くだけだと冗漫に聞こえる部分さえあります。
 でも僕は、このアルバム大好きです。当時イアンは、「ディープ・パープルのボーカリスト」というイメージで見られることを避けようとしていたようで(このへんの感じはゼップ解散時のロバート・プラントと同じかも知れませんね)、彼のもうひとつの面である「黒人音楽愛好家」のセンスを強く打ち出したんだと思います(リリースもアイランド・レコードだし)。バンドのメンバーであるレイ・フェニックやジョン・ガスタフスンなども、ハード・ロック文脈からはみ出すような個性的な活動をしている実力派です。上に「リッチーやジョンほどではない」と書いたソロについてですが、よく聴くと実に丁寧に演奏していて、力があるミュージシャンだということがわかります。特にジョンのベースとマーク(・ナウシーフ)のドラムは非常にファンキーで、この2人が絡み合う感じの部分は実にスリリングです。イアンも実に楽しそうに歌っているし、声もよく伸びています。ただこの時期のイアンには、音楽自体にまだ迷いがあり(直後に始まるギラン時代は、そういう部分はなくなります)、彼自身の歌い方や声もやろうとした音楽に完全にフィットしていなかったので、結果的に不完全燃焼気味に受け取られてしまうようです。そういう諸々の事情があって、後の評価が下がってしまったのかも知れません。
 この「Budokan」は1枚出た後、半年後(これが30年前の夏)に「好評なのでもう1枚出します」と「同vol.2」が出てしまい、そこに3曲のパープルナンバー(「Child In Time」「Smoke On The Water」「Woman From Tokyo」)が収録されているためにうるさ型のファンから酷評され、普通のパープルファンには「アレンジが違う」とやっぱり酷評され、結果的に忘れられていったようです。
 でも、このアルバム、決して凡作ではないと思います。演奏は長く聴くと良さがわかる「ジャズ・ロック」ですし、会場のムードもいい(本当に雰囲気がいいんです)。IGBの曲はもちろんいいですが(僕は「Over The Hill」「Twin Exhausted」「Mercury High」などが気に入りました)、パープルの3曲も個性的なアレンジ、特に「Woman From Tokyo」はスピード感のあるアレンジで、僕は本家のスタジオテイクよりもこちらの方が好きなほどです。
 イアンはこの後、ギランでイギリスを制覇し、絶頂期といっていい数年間を過ごしますが(その後ギラン解散〜サバス加入〜パープル再結成〜再びクビと再再加入など、波乱の日々を過ごすことになります)、今ではあまり語られないソロ最初期にも、ちゃんと質の高い音楽を奏でていたことは、憶えておきたいと思います。第2期ジェフ・ベック・グループが好きな人に、ぜひ聴いていただきたいアルバムです。
このアルバムを聴くと、中学最後の夏休み、高校受験を控えた悩み多き(?)日々を思い出します。あれから30年か。長かったのか、あっという間だったのか?不思議な気分です。明日はもう9月。夏も終わりです。

Live at the Budokan

Live at the Budokan